『庭の話』

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きりん組さん。

近所のあの子は年中さん。いつも補助付き自転車で走り回ってる。
「こんにちは」
「きりん組さんになったんだよね?」
「幼稚園、楽しい?」

「・・・・・・」

寄っては来てくれるんだけど、一言も口を聞いてはくれない。
でも、こっちへ来る事は来る、なんでかなあ。
知らない人とはお話しちゃいけないって言われてるのかな?
でも実はおばさん、すごく近所のおばさんなんだよ。
ついでに君のお姉ちゃんとおばさんちの子は 小学校で同じクラスなんだよ。
多分、息子の方とは顔見知りなんだよね。
「おばさんはね、Rのお母さんなんだよ」

「・・・・・・」

あうう、嫌われているのか??でも時折、側に来ては じいっと何かを見て
いるんだよねえ。どうした物か。
おばさん、大人しい女の子はどう扱ったら良いか、今ひとつ判らないんだよ。
動物みたいな男の子なら 育てた事あるんだけどねえ。

今日、その子の自転車の前の籠に沢山の花が入っている事に気が付いた。
正確に言うと気が付いたのは、一緒に立ち話をしていたお向かいの奥さんだ。
その家にも同じ年中さん、パンダ組さんの女の子が居る。
「わ、すごい大きなお花」
見ると大輪のスイセンの花が入っている。他にもタンポポが幾輪も。
「おうちのお花なの?」
訊ねられても、やはり応えない。お話は苦手なのかも知れない。
でも花は好きなんだなあ。
子供に手渡すのにはごつい花だが、ムスカリを摘んであげた。
「ありがとう」
やった!初めて笑ったぞ〜。む〜う、勝利感。
「お花が好きなの?」
こっくり頷く。なるほど、それで時折 庭を見に来ていたのね。
もう一輪、ぱんだ組さんの自転車にもプレゼント。その子の自転車の
籠には、字が書ける石が入っていた。
「もう少ししたら、もっとお花が沢山咲くから、お庭においでね」
そう言うと、きりん組さんは、やっと可愛い顔を崩して笑った。



管理人 焙煎 |午後からガーデン