過去ログ一覧前回次回


2021年12月10日(金) お里が知れる

年下の友人が派手な夫婦ゲンカをしたという。発端は、保育園に通っている子どもの食事中の行儀がよくないと先生に指摘されたこと。
「大人がしていることを見て自然にマナーを身につけていくことも多いので、お父さんお母さんがお手本になって、声かけしてあげてくださいね」
そう言われ、夫に抱いてきた鬱憤が爆発したという。

結婚したときから気になっていた。夫の偏食がひどいこと、左手を使わずに食べること、茶碗にごはん粒がたくさん残っていること、食事中に平気でトイレに立つこと。
義父や義兄も同じ食べ方、食べ姿であることに気づいてからは危機感に変わった。
「子どもが父親を見て、これでいいんだと思ったら困る」
しかし、その思いは夫には理解されなかった。それどころか、どうしてそう“細かいこと”を言われなければならないのか、という不満がありありと見える。
食べながらスマホを触るのはやめてほしいと言ったときも、「食事中に新聞を読むのはよくて、スマホはどうしてだめなんだ?」と返ってきたという。
新聞だってよくはない。でも朝は忙しいし、夜も帰りが遅くて読む時間がないだろうと思って、黙っていただけ。
「だったら、スマホでニュースを読むのだってかまわないだろ。ゲームをしてて文句言われるのなら、まだわかるけど」

父親が目の前でそうやって食べているのに、「好き嫌いしないで食べようね」「左手はお茶碗に添えるんだよ」「ごはんのときはウロウロしないよ」「ごはんの時間だから、おもちゃを片付けておいで」と言われたら、子どもはあれ?と思うだろう。
「自分の姿が子どもの目にどう映るかなんて、一切考えてないのよ」
友人はため息をついた。



彼女の話を聞いて、私は少し前に読んだ「発言小町」のトピックを思い出した。
トピ主はゼロ歳、三歳の子どもを育てる女性。

朝子どもにパンを食べさせるとき、ティッシュに載せて出すことが多いんですが、今朝夫に「子どもが変なことを覚えるといけないから、皿に載せて」と注意されました。
たしかによくはないと思いますが、皿ティッシュはそんなにダメでしょうか。



自分でも「よいことではない」と思いながらしていたことを誰かに指摘されたら、「やっぱりダメだよね、テヘ」となりそうなものだが、この女性は「そんなにダメでしょうか」と食い下がる。
そんなに納得がいかないんだろうか、と驚いてしまう。「夫はこのように育児に関して注意だけして、私の負担を増やす傾向にある」とつづけているが、皿を数枚余分に洗うのがそんなに手間なのか。
いや、夫婦ふたりなら、パンを新聞紙に載せようがテーブルに直接置こうが好きにしたらいい。本来は皿に載せて食べる、と知っているから。
でも、三歳児はそうじゃない。パンがいつもティッシュに載っていたら、そういうものと思い込んでしまう。しかし、それは世間の常識ではない。
親の教え、家庭のやり方が子どものスタンダードになることを考えたら、夫の「皿に載せてほしい」という感覚は真っ当だ。

大人は仕事や育児に追われ、食事が空腹を満たすためだけのものになることがあるが、幼児にとってのそれは食べ方を教わり、食べる楽しさを知る時間でもある。
畳の縁を踏んではいけないことを知らなくても、恥をかく機会はそうないかもしれない。しかし人前で食事をすることはいくらでもあり、そのマナーを知らないと人を不快にするし、「お里が知れる」とまで言われてしまうのだ。
パンをかわいい皿に載せてあげたらよろこぶだろうに、洗い物を増やさないためにティッシュで代用とは……。子どもが学ぶべきことを学べない食卓は豊かとは言えまい。
そして、食事の場面をおろそかにする人はほかのことでも時短や効率を優先して、子どもへの影響についてはまったく考えないか二の次三の次にしてしまうんじゃないだろうか。
私はできた母親ではないけれど、「真似をしないほうがいい」と思うこと------食事と言葉遣いに関してはとくに------は子どもの前ではしないよう気をつけている。

逆に言うと、社会生活を送る上で必要な常識や習慣を子どもがひと通り身につけ、「よそではやっちゃダメだからね」「わかってるってば」という会話をできるようになったら、多少のずぼらは許されるのではないかしらん。

子供の頃から、祖母に「買ってきたお惣菜等をパックのまま食卓に出してはいけない」と言いつけられていたが、高校生くらいで「そろそろ食べ物をパックのまま食卓に出してはいけないとわかっただろうから、今日からパックのまま食卓に出しても良い事にする」と解禁された。禅問答めいている

(鴫鳥の宗教へようこそ(@kamozi) March 2, 2021 より)


「親は子どもの前で横着をしてはいけない」のではない。そのとき、「横着をしていること」を子どもがわかっていることが大事なのだと思う。

【あとがき】
親だって未熟な人間だもの、いつもいつも“お手本”ではいられません。疲れたら、横着もしたくなります。
でも、手を抜いて楽をしていい場面とそうでない場面がある。皿ティッシュは……私はなしだな。料理に合った器を使うことも、箸の持ち方を練習させるのと同様、「食べ方」を教えることだと思います。