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2021年10月16日(土) 和式トイレのレバー問題

膝の手術を控えた患者の自宅のトイレが和式であるとわかり、カンファレンスで「洋式に替えないと、家には帰れないね」と話していたときのこと。
「それにしても、よくあの年齢まで和式でこられたなあ。私なんか、駅のトイレで和式が空いてても使わないよ。足腰に優しくないもん」
と誰かが言い、
「私もそう。最近腕の力が落ちたのか、レバーを押しても一回で水が流れてくれないことがあって、和式は面倒なんだよね」
と別のスタッフが答えたところ、何人かが「えっ」と声をあげた。

「レバーを手で押してるの?」
「どうして?手じゃないの?」
「いや、足でしょ!」
「ふつうは手で押すよね?」
「ふつう足だよ」
「私も手でなんて押したことない」
と騒然となったのだ。
和式トイレの洗浄レバーを「手で押す」と言ったのは彼女一人。あとの四人は「足で押す」派だった。



あれは手で押すものなのか、それとも足で押すものなのか。
以前、友人と話していてやはりこの話題になったことがある。私はそのとき初めて、あのレバーを手で押している人がいることを知ったのだ。
(あまりに驚いたので、当時この日記のネタにもしたのだけれど、十何年も前のことなので読み手もほぼ入れ替わっているでしょう。ということで、何食わぬ顔で書いちゃおう)

三十数年間、私が「あれは踏むもの」と信じて疑わなかった最大の理由はレバーの位置だ。
水を流すタイミングを考えてみよう。おしりにしぶきがかかるのを避けるため、多くの人は立ち上がってからレバーを押すのではないだろうか。とすると、床から二、三十センチのところにあるそれを手で押すためにはうんとかがまなくてはならない。
写真を見ていただきたい。

ほら、足で押すのにちょうどよい高さ。手で押すべきものなら、わざわざこんな押しにくい位置に設置するはずがない。
たまに腰くらいの高さにレバーがついていることがあるが、そういうときは私も「これは手で押すタイプだな」と認識する。

そして、もうひとつはレバーの硬さ。
足でもわりとしっかり踏み込まなくてはならないそれを手で押すとなると、けっこうな力が必要だ。子どもや高齢者だったら、難儀することもあるのではないだろうか。

それらを根拠に、私は公衆トイレで迷うことなく足で押してきたのだった。
しかし、手を使っている人もいると知ったら、本当はどちらが正しいのか気になるではないか。実際にみんながどうしているのかにも興味がある。
そこで、私は日記の中で「和式トイレの洗浄レバー、あなたは手で押しますか、それとも足で押しますか」と尋ねてみることにした。
そうしたら三百四十九名の方が回答してくれ、驚きの事実が判明した。

一番左の棒が回答者全体、真ん中が女性、右が男性の結果。
男女ともに「足で押す」が圧倒的に多い。
全体で見ると「手で押す」と答えたのは四分の一で、六割を超える人が足で押していることがわかったのだ。

女性  手で押す
私が手で押してたレバーを足で踏んでた人がいたんですよね、きっと……ショック!


「きっと」どころか、こんなむごい結果が出てしまいました……。

さて、「あのレバーは手と足、どちらで押すのが正しいの?」に対しては、

男性  足で押す
でも、小学校(25年前の山口県)の時、洗浄レバーは手で押すようにと学校で先生に言われました。

女性  手で押す
高校生の時、トイレに「手で押すこと!」という主旨の貼り紙があったので、それが正解なんだと思うようになりました。

女性  足で押す
職場のトイレには「手で押すように」と書いてあります。

といったコメントが続々。
中には、「あれは足で押すもの」と一ミリたりとも疑わずに生きてきた私と同じような人もいて、

女性  足で押す
学生時代、トイレットペーパーが流れきらず残っているのを発見した友人も足でレバーを踏んで流していましたし、それが普通だと思っていました。
手でレバーを押す人がいるなんて知ったのは、二、三年前です。

男性  足で押す
高さが足向けですので。それ以外考えられませんでした。

といったものもあったけれど、足派の多くも「本当は手」という認識は持っているようだ。
ではなぜ、そうと知りながら足を使うのか。「汚そうだから」以外にも、もうひとつ大きな理由があった。

女性  足で押す
手で押すと、体勢的にきついから。

女性  足で押す
足で押すのに丁度いい位置にあるから、他の人もそうしてるんだと思ってました……。

そう、レバーの位置だ。
「下すぎて押しにくい」「低いところにあるので、いろいろなものが飛んでいそうで気持ち悪い」という意見がとても多かったのだが、私もその位置に疑問を感じている者である。
レバーが腰の高さのところにあれば、手か?足か?と迷うことはないし、押しにくさの問題も発生しない。それなのになぜ、勘違いされやすい上に使い勝手も悪いあのような位置に取り付けるのか。
それとも、床に近いところに設置せざるをえない、配管上の都合でもあるのだろうか。

というわけで、その謎を解くべく私は電話をかけた。どこにって?
TOTOのお客様相談室に。

「あのー、つかぬことを伺いますが、和式トイレの洗浄レバーは足ではなく手で押すものだと聞いたんですけど……」
「さようでございます。足で踏むと加重に耐えられず、レバーハンドルが壊れてしまうことがあります」

なるほど、“ハンドル”なのねーと頷きつつ、つづける。

「でしたら、どうしてもっと高い場所に設置しないんでしょう?下のほうについているから足で押す人がいるのではないでしょうか」
「操作性を考えた上で、現在の位置がもっとも適切であるという判断をさせていただいております」

なぬー、いったいどこが適切なんだ?
すかさず心の中でつっこみを入れる。「わざわざかがまなくてはならないのは面倒」だとか「押しにくい」だとかいう意見が山ほどあったよ。

「いえ、レバーハンドルは座ったまま押すことを前提に設計されておりますので、座った状態で目線より下くらいの位置に取り付けることが多いんです」

これを聞いて、私の目から鱗がばらばら落ちた。
私は水を流すタイミングについて、「おしりにしぶきがかからないよう、多くの人は立ち上がってからレバーを押しているのだろう」と推測していた。実際、

女性  手で押す
しゃがんだまま用を足して、水を流して立つという流れにムダがないと思います。レバーを踏むために足を上げる必要がない。

という人よりも、

女性  足で押す
立ち上がって衣服を身に着けてからえいっと足で押してました、何の疑いもなく。

という人のほうがずっと多かった。
しかしながら、メーカーは「水を流してから立ち上がる」と想定していたのである。だから、いつも下のほうにレバーがついていたのだ。

というわけで、正解は「手」。なんだけれど……。

女性  その他
この話題は中学の時に家庭科の教師が取り上げたことがあります。あれは「ハンドル」なので手で握るものなのだと。用を足す前に音を消し、ふたたび流すものですと。
その理知的な解釈に感動はしたものの、クラスの全女子が足で踏んでいました。わかっていても、なお足で踏んでますし^^;

男性  足で押す
私はトイレとかの取り付け施工の仕事をしているんですが^^
まぁでも大体足ですね、職業柄、足でするものじゃあ無いとわかっていても公共トイレなど衛生面等保たれて無いとかだと、胸を張って足ですね^^;

女性  手で押す
本当は足で押したいのですが、「汚いし、(後の人に)悪いかなー」と思って手で押してます。みんな手で押してるものだと思ってました。これからは遠慮なく足で……(・・;

ひゃ〜。
でも、私は“正しいお作法”を知ってからは(トイレットペーパーで完全防備して)手で押していますよ。さて、みなさんはどうしていますか。

【あとがき】
当時は日記の中でこういうアンケートをちょくちょくしていました。結果発表して、いただいたコメントも全部別ページに掲載して。
今日の日記を読んでくれた方の中に、「そうそう、この和式トイレのアンケート、答えた記憶あるわ〜」という方がいらしたら、本当に長い間読みつづけてくれているということで感謝感激です。