過去ログ一覧前回次回


2007年11月02日(金) 子煩悩もいいけれど

昼休み、休憩室のテレビで年賀はがき発売開始のニュースを見ながら同僚が大きなため息をついた。毎年友人から届く年賀状に悩まされているのだという。
彼女は大阪で一人暮らしをしているのだが、年末は帰省する。そのことを知っている地元の友人たちが実家のほうに年賀状を送ってくるのであるが。
「元旦に読めるようにって気をきかせてるつもりなんやろけど、はっきり言ってありがた迷惑やねん。っていうのがな、どれもこれも子どもの写真入り年賀状やねん」
つまりこういうことだ。小さな田舎町、中学・高校時代の友人のことは彼女の親もよく知っている。年賀状を眺めながら話は「○○ちゃんとこの子はこんな大きなったんやねえ」「あの△△ちゃんが立派なママになって……」では仕舞いにならず、「みんな先のことちゃあんと考えて結婚して子ども生んでるのに、アンタはどないする気や。自分で相手よう見つけんのやったらこっち帰ってきて見合いせい!」に発展するらしい。
毎年判で押したように繰り返されるこのやりとりのために実家の居心地が悪くてかなわない、と彼女はこぼした。

ふーむ、なるほど。子ども年賀状は好きじゃないという話を聞くたび、「年にいっぺんのことでしょう。褒め言葉を強要されるわけでなし、さらっと読み流してあげればいいじゃない」と思っていたが、こういう実害があったんだなあ……。
すると、彼女はきっぱりと言った。
「いいや、褒め言葉、強要されるでー」
彼女には年賀状とは別にもうひとつ、「子どもの写真」で困惑していることがあるという。友人の一人がわが子の写真を頻繁に携帯に送ってくることだ。
甥や姪ならともかく、他人の子どもである。冷たいようだが「ただいまお昼寝中〜♪」の姿を見せられてもなんとも思わない。
それでも最初のうちはなんとかコメントをひねりだしていたのだが、メールの内容にかかわらず毎回添付してくるので次第にお愛想をする気力もなくなってきた。
「それにな、画像を受信するの料金かかるやん。なんで見たいわけでもない写真にお金払わなならんのかって思ったらバカバカしなって」
そこで最近は子どものことには触れずに返信するようになった。そうしたら相手もつまらなくなって写真は送ってこなくなるだろうと思ったのであるが、相変わらずということだ。

彼女が閉口するのはよくわかる。私にも同じ経験があるから。
ほとんど付き合いのない従兄なのだが、子どもができてから休日に家族でどこかに出かけるたびわが子の写真を送ってくるようになった。パソコンのメール宛てだったので受信料うんぬんの気がかりはなかったが、それでもなにかコメントをしなくてはならないと思うとどっと疲れた。
彼とは十数年会っていないから、私は奥さんの顔も知らない。その子どもとなると、親戚ではあるのだけれど正直なところ身内の愛情みたいなものは湧いてこない。いつも「かわいいね」では芸がないし、かといって写真はしょっちゅう送られてくるから「大きくなったね」は使えない。子煩悩な男性は好ましいのだが、ここまでとなるとちょっとなあ……と思ったものだ。
が、このストレスからは一年ほど前に解放された。彼がブログを始めたからである。
人の幸せそうな様を見るのはいいものだが、子どもの写真がてんこ盛りの育児日記というのは私の一番苦手なジャンル。すまなく思いつつも数回しか訪問していない。

* * * * *

ところで、このところのブログやmixiの隆盛でアルバム感覚でweb日記をつけている知り合いはほかにも四、五人いるのだが、彼女は元気にしているかな?とたまに見に行くと、ちょっと引っかかることがある。
わが子と一緒に「お友達」も写っている写真が掲載されていることである。よく見かけるのだが、こういう場合は載せる前にその子の保護者に了解を取っているんだろうか。以前、友人から「旅行の写真を渡したら、私が写ってるのまで無断で彼女のブログで使われてびっくりした」という話を聞いたことがあり、ついそういうことが気になってしまう。
閲覧制限をしていないサイトでわが子の写真を公開するなどというのは私には考えられないことだが、それはまあ人それぞれ考え方がある。「神経質ね。リスクばかり考えてたらなにもできないわ」と思う人は好きにしたらいいのだが、しかしよその子どもはいかん。
親がどれだけ気をつけていても、名前や住んでいる場所を隠す気もないママ友のブログで「同じ幼稚園の××ちゃん」なんて顔写真付きで紹介されてしまったらひとたまりもない。自分や自分の家族のプライバシーに執着がなく危機感の薄い人は他人のそれについても同じように無頓着なことが多いから困ったものだ。

子どもの写真付きメールをじゃんじゃん送ってこられると「わが子の成長アルバムはブログでやってくれると助かるんだけどナ」と思うけれど、一緒に撮った写真をあげるときにいちいち「うちの子も写ってるのは載せないでね」と牽制しなくてはならないのは難儀である。

【あとがき】
ある育児日記で、「見知らぬ男性読者から、『お嬢さんかわいいですね。パソコンの壁紙にしました』というメールが届いた」と読んだことがあります。たとえ犯罪に巻き込まれなくてもこういうことがあると考えただけで私は十分気持ちが悪いです。
たとえmixi日記であっても設定を「友人の友人まで公開」にしていたら閲覧制限はかけていないも同じ。顔出しは考えたほうがいいよなあ……と私なんかは思うけど、そのあたりに危機感を感じていない人は少なくないみたいですね。