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2007年10月09日(火) 苦手なのは「子ども」ではなくて

友人A子が苦笑しながら言う。
最近、学生時代の友人(B子さん)が二歳の息子を連れて彼女のマンションに遊びに来た。家にいてばかりで息が詰まりそうだと言うので自宅に誘ったのだが、親子がやってきて三十分もたたないうちに「失敗した!」と思ったという。独身のA子はそのくらいの年の子どもがどんなにやんちゃかを知らなかったのだ。
男の子は持ってきたおもちゃを壁に投げるわ、ソファでトランポリンをするわ、引き出しを次々と開けては中のものを放り出すわ。しかしB子さんは慣れっこになっているためか、息子が飲み食いしながらそこいらを歩き回っても「こらぁ、こぼしちゃだめでしょ〜」とのんびり言うだけ。部屋をおしゃれにして住んでいるA子は気が気でなかったが、親が叱らないのに自分がなにか言うのもためらわれ、見ていることしかできなかった。
が、その遠慮があだになった。男の子がカーテンにくるまって遊んでいるうちにおもちゃを引っかけてレースに大きなかぎ裂きを作ってしまったのだ。
これにはさすがにB子さんも慌て、「どうしよう、ごめんねー」と平謝り。A子は破れたレースを見て卒倒しそうになった。しかし子どもが泣きだしたため、精一杯の作り笑顔で「わざとやったんじゃないし……」と言わざるを得なかった。
B子さんはすまなさそうに、しかしその修繕については一言も触れぬまま帰って行ったそうだ。

「だから小さい子って苦手やねん〜〜っ」
A子の嘆きはよくわかる。どこを探しても同じレースは見つからず、結局リビングにかけてある四枚ともを新しいものに取り替えなくてはならないらしい。……となれば、幼い子どもを責めるつもりはなくともそうこぼしたくなるのは無理もない。


しかしながら、私の場合はどちらかと言えば「小さい子ども」ではなく「小さい子どもを持つ女性」に対して苦手を感じる機会のほうが多い。
何年か前、会社の飲み会に参加したときのこと。妊娠を機に退職した女性が宴のなかばに子ども連れで顔を出した。
「専業主婦になってどう?」「子育てには慣れた?」などと盛り上がっていたのだが、そのうちどこからともなく煙の匂いが漂ってきた。パーティションを隔てた隣のグループの客がタバコを吸い始めたらしい。
すると彼女がみるみる不機嫌顔になった……と思ったら、突然「子どもがおるのにタバコ吸うなんて信じられへん!」と言い放ったのである。
そしてメニューをパタパタさせて煙を追い払いながら、「子どもがそばにおったらふつう遠慮せんか?」「自分らさえよければよその子に受動喫煙させても平気なんやろな」と隣に聞こえるような声で言い続けた。

へええ!と思った。その一帯は禁煙席ではなかった。現に私たちのテーブルにも灰皿が載っている。にもかかわらず、見ず知らずの客の喫煙を非難したことに私はとても驚いた。
私も非喫煙者だからタバコの匂いは嫌いである。食事中に煙が流れてくるとムムムと思う。しかし、そこが禁煙席でないならしかたがないとあきらめる。きちんと分煙されている、あるいは全席禁煙の店を選べばよいものを、自分がそれをしなかったのだから。
……ともし彼女に言ったら、きっと「私が店を選んだんじゃないもん」と返ってきただろう。しかし好むと好まざるとにかかわらず、喫煙が許されている場所に身を置きながらそれが当然という顔で「迷惑だ」「非常識だ」と相手を咎めることは私にはできない。
そもそも、隣の客がパーティションの向こう側の子どもに気づくことなどできただろうか。あちらにすれば、「こんな時間に居酒屋に乳飲み子を連れて来るあなたの常識はどうなのよ?」と言いたくなったかもしれない。
わが子に煙を吸わせたくないという彼女の気持ちは理解できるのだが、同席者に配慮を求めるということならともかく、赤の他人への「だから吸わないでちょうだい」には頷く気にならなかった。
以前勤めていた会社に、妊娠中だからとクーラーを毛嫌いする女性がいた。初めはみな「妊婦さんは体を冷やさないほうがいいもんね」と調子を合わせていたが、夏本番になるとそうも言っていられない。が、外回りから帰ってきた男性が温度を下げると、彼女は飛んで行ってエアコンの温度設定を三十度に戻してしまう。
「赤ちゃんを守れるのは私だけだから」
まったくその通りなのだが、しかしそこがわが家でない以上、自分の要求ばかりでなく周囲との調和というものも考えなくてはならないだろう。

先日、テレビで高田万由子さんが「子どもを連れてあるお祭りに行ったらベビーカーに乗せたままはだめと言われた、納得がいかない」と話していた。
「上の子の手を引きながら十二キロもある下の子を抱えて歩くなんて無理」
「お祭りは子どものためのものなのにベビーカーがだめなんておかしい」
と憤慨しているのを見て、思わず首を傾げた。
主催者は「邪魔だから」それを締めだしているわけではないだろう。大変な人込みの中をベビーカーで進むのは赤ちゃんにとっても周囲の人にとってもとても危険なのではないか。将棋倒しになったらベビーカーの上に人が圧し掛かるし、前を行く人のかかとにベビーカーをぶつけてしまうこともあるだろう。双方の安全のために通行禁止になっているのだ、と私などは想像するのだけれど。

「あなたには子どもがいないから大変さがわからないのよ」
と言われたら、そりゃあまあそうだろうけど……と答えるしかないが、ふだんはそんなことはないのに子どものこととなると度が過ぎて神経質になったり周りが見えなくなったりする女性がときどきいるなあというのは正直な感想だ。

【あとがき】
子どものいるある友人は、ママ友が子連れで家に遊びに来る時、お菓子はクッキーなどの乾物しか出さないことにしていると言います。ケーキ類だと手づかみで食べた手であちこちを触られるのでかなわない!だそうで。子どもがどういうものかわかってる人でさえ、「『子どものすることだからしょうがない』って心から思えるのは自分の子が(汚したり壊したり)した時だけだよ」と言うくらいだから、子どもに縁のない生活をしている人がそういう場面で心穏やかでいられないのは無理ないなぁという気がします。
そういう点で、子どもができると(寛容度の低い)子どもを持たない人とは付き合いづらいと感じるようになるかもしれませんね。