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2007年03月09日(金) 「うちの夫にかぎって」

今年から日記の更新ペースを落としたら、のんびりできるようになったのはいいけれど、世間の話題にタイムリーに反応できないのが悔しいワ……。
というわけで、いまごろ寺島しのぶさんの結婚のニュースについて。
寺島さんは私にはあまりなじみがなく好きでも嫌いでもない女優さんであるが、記者会見のときの、
「私のひと目惚れです。ありとあらゆる手を使ってアタックしました」
という言葉はとても新鮮で、好印象だった。
そうまでしたくなる人にめぐりあえたこともすてきだが、「欲しいものは自分で掴み取る」心意気がすばらしい。私も恋愛事には積極的なほうだと思うけれど、ここまでアグレッシブにはなかなかなれるもんじゃない。たいしたもんだと感心した。

さて、その会見の中にもうひとつ、へええと思った点があった。指輪はどうしたのかという質問に、
「私はもらったが彼にはあげていない。私だったらすてきだなあと思う人が指輪をしていたらがっかりしてしまう。男性はモテるほうがいい」
と答えていたこと。
辺見えみりさんもキム兄が女性とデートしているところを週刊誌に撮られたときに「だんなはモテるほうがいいですから」と言っていたが、こんなふうに余裕しゃくしゃくでいられる奥さんはそうはいないのではないだろうか。
いや、単純にモテる、モテないを比べるのなら前者のほうがいいに決まっている。自分の夫に一般に通用する男の魅力があるということなのだから。
しかしながら、「モテる」という現象はしばしば厄介事を生む。そう、浮気。夫を信用していないわけではないけれど、相手はそれこそ「ありとあらゆる手を使って」夫に迫ってくるかもしれないのである。
よって、平穏な家庭生活を望む妻の本音は「そりゃあモテたほうがいいとは思うけど、やきもきしなくちゃならないのは私イヤだから、うちの人はモテなくていいわ」というあたりに落ちつくのではないだろうか。

* * * * *

新聞やネットの人生相談コーナーを読んでいると、「どうも夫が浮気をしているらしい。どうしたらよいか」という質問をちょくちょく見かける。妻は男性が思っているよりもずっと夫の変化に敏感で、その言動に厳しく目を光らせているのだ。
以前テレビで、夫や恋人が携帯を置いたまま席を外したら女性はどうするかという実験を見たことがある。開始前、ほとんどの男性が「妻はぜったい見ませんよ。そんな女じゃない」「彼女を信じてます」と言い切っていたが、蓋を開けたら八割方の女性が通話履歴やメールを盗み見していた。それどころか、夫になりすまして返信までするツワモノも。男性たちは別室で隠しカメラの映像を見ながら愕然としていた。

しかし、こんなことをするのは自分に自信のない女性だけかというと決してそうではない。女優さんのエッセイを読むと、恋する女はみな同じなのだということがよくわかる。
黒木瞳さんは夫をのびのびさせすぎないために門限を設けたり、「親展」と書かれた夫の携帯の通話明細書を開封し、電話番号をひとつひとつ「これはどこ?これは誰?」と確認したり。藤原紀香さんは二十代の頃、自分と会っていないときの恋人の行動を監視するため、彼の留守中に部屋に入り込み、写真や留守番電話をこっそりチェックしていたそうだ。女の声で何時にどこそこで待ってるねと録音が入っていれば、その時刻に現場に行き、二人の様子をメモ。さらには彼の留守電を外から操作する暗証番号を探りあて、メッセージを再生しては浮気の証拠を集めたという。
どんな美女も恋をすると浮気を恐れて猜疑心のかたまりになり、愚かな真似をするのである。

黒木瞳さんは著書『夫の浮わ気』のエピローグにこう書いている。
「血の繋がりのない夫を信じられるなんて、聖母マリア様です。人生を悟れる修行僧です。私にはとても真似のできないオリンピックのウルトラE技です」
「“信じてるわ”とか“信じろよ”とかいう言葉なんて、男と女には通用しません」
だから、自分はなんでも浮気と結びつけて考えてしまうのだ、と。夫が会社を出てから帰宅するまでのあいだに空白の時間があると、妻に言えない場所に寄ってきたのでは?と胸に暗雲が立ち込める。ふだん朝食を食べない夫が突然ハムトーストを食べたいと言いだせば、「誰かに『朝はちゃんと食べないと体に毒よ』とでも言われたのかしら……」と勘ぐる。
「家にクロキヒトミがいて、浮気をする夫なんかいるかあ!?」と言いたいところであるが、「夫を信じきることなどできない」という言葉には私も同意する。血の繋がりのあるなしが理由ではない。
「この先、ぜったいに浮気をしないか?」
私はこの質問を自分にしても、「はい、しません」とは答えられない。未来のこと、しかも男と女のことで「ぜったい」なんてありえないもの。「そのつもりではある」としか言いようがない。
三十余年付き合ってきた自分自身のことですらわからないのに、他の人に対して百パーセントの確信を持つなんてことができるはずがあろうか。

けれども私はいまのところ、夫の携帯や手帳をチェックしようと思ったことはない。
彼がいまそこいらに転がしている携帯をお風呂場にまで持って行くようになったり、いつも引き出しの上にあるものからガバッと取って出張カバンに詰め込む下着を選り好みするようになったり……。そんな日が来ないかぎりは「うちの夫にかぎって」という呪文を半分本気、半分願いを込めて唱えながらのんきに暮らすつもりだ。
でなきゃあ週の五日間出張で家を空ける人の奥さんなんてとてもやってられません。