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2007年03月06日(火) お風呂で「する」と言うとびっくりされてしまうこと

昨日お風呂で慌てちゃった、と同僚が言う。さあ出ようとノブを掴んだらなんとしたことか、根元からぽろりと取れてしまった。大声で部屋にいる夫を呼び、外から開けてもらったそうだ。
「当たり前だけど、ドアってノブがないと開かないのよねえ。私、初めて気づいたわ」
と感心したように言うが、私は話を聞きながらぞぞっとした。
平日は一人暮らし状態の私が同じ目に遭ったらいったいどうなるんだろう。近所の人に助けを求めようにもうちのバスルームには窓がない。ドアを蹴破って出る……なんてことは可能なんだろうか。週の終わりに夫が出張から帰ってくるまで閉じ込められたまま、というのも考えられない話ではない。
以前から思っていた。殺人事件やなんかのニュースで、異変を感じた身内や同僚が自宅を訪ねて死体を発見……と聞くたび、
「これが私だったら、一日二日じゃぜったい見つけてもらえないよなあ」
と私はつぶやく。私の携帯が何度架けても留守番電話だったとしても、夫や友人は「またマナーモードでカバンに入れっぱなしにしてるな」くらいで気にも留めないだろう。たとえ私が一週間無断欠勤しても、会社から誰かが訪ねてきて不動産屋に「様子がおかしいから鍵を開けてくれ」とまで言うことは考えられない。私の場合、事件発覚は最短で金曜の夜遅く、運が悪ければ(夫が土日も出張であれば)が翌週……になるのは間違いない。
帰宅して、真っ先にお風呂とトイレのノブをチェックした私である。

ところでお風呂というと、二、三日前の日経新聞の記事で黒柳徹子さんの健康の秘訣が紹介されていた。その中に入浴法の話があったのであるが、黒柳さんはいつも湯船に浸かりながらシュークリームやアイスクリーム、果物なんかを食べるのだそう。
世の中にはいろいろな人がいるからこのこと自体には「へええ、お風呂でねえ」と思うくらいだったのだけれど、
「みなさん、自宅のお風呂では飲んだり食べたりしないんですってね。温泉でお湯に浸かってお酒を飲む人がいるでしょう。だから普通だと思ったのに、驚きました」
という言葉にはさすがに驚いた。お風呂はトイレに次いでプライベートな空間だから、人によって「普通」が違ってくるのだろう。
以前独身の友人のマンションに泊まりに行ったら、バスルームの床に一・五リットルのペットボトルが五、六本転がっていた。お風呂から上がってあれはなんなのと訊いたら、怪訝な顔をして言う。
「湯船に入れるやつやんか」
なんと、彼女は自分一人のためにバスタブにお湯をなみなみと張るのはもったいないと、水を入れたペットボトルを何本も投入して水かさを増やしていたのである。
節水のためにトイレのタンクにペットボトルや瓶を入れるという話は聞いたことがあるけど……と絶句していたら、「少ないお湯で肩まで浸かれる。これ、一人暮らしの常識やでえ」と言われてしまった。

私はバスタイムが一日の中で一番幸せを感じる時間かもしれないと思うくらいのお風呂好きである。
もちろんお湯の中でものを食べたり、バスタブにペットボトルを沈めたりなんかしない。ごくノーマルな入り方をしていると思っているのだが、ひとつだけ、人に言うと決まって笑われることがある。
夫と一緒に入ったら頭から体から全部洗ってあげる、ということだ。
……と言ったら、「まっ、仲のおよろしいことで」という声が聞こえてきそうだ。つい先日も結婚が決まっている年下の友人にこの話をしたところ、「ウフフ、うちもやりますよお、洗いっこ」と言われた。しかし違う、違うのだ。彼女にも「あなたたちのラブラブバスタイムと一緒にしないでちょうだいっ」と即座に返した私。
べつに照れているわけではない。本を読んだり考えごとをしたり、私は一人でゆっくり入りたいのだ。しかし夫は洗ってもらうとラクチンかつ気持ちがいいものだから(エッチな意味ではない。美容院のシャンプーや垢すりは気持ちいいよね?)、ダメ!と言っても入ってくる。じゃあお先に〜と上がろうとするとピィピィうるさいので、私はしかたなくスポンジを手にとる、というわけなのだ。
よって、「洗ってあげる」とはいっても甘い気分どころか、私にとってはお風呂のついでにマジックリンでバスタブや洗面器を磨くのとたいして変わらないのである……と言ったらちょっとかわいそうかしらん。

ちなみに、私は「洗いっこ」というやつはいままでに一度も、誰ともしたことがない。一緒にお風呂に入れるならどうってことないでしょうと言われそうだが、付き合い始めの一番盛り上がっているときでもそれだけは無理だった。洗うのは平気でも、洗われるのは……ウムム。こう見えて、私はものすごく恥ずかしがりである。
もっとも、あと十年くらいして押しも押されもせぬオバチャンになった暁には夫に向かって「たまには背中流してちょうだいよ」なんて言っているのかもしれないけどさ。