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2006年11月29日(水) 写真は嘘をつかない、と言うけれど

雨が降ったため、めずらしくおとなしく家にいた先週末の夫。朝からパソコンとプリンタでごそごそしているなと思っていたら、年賀状の裏面のデザインを考えていたらしい。
ふだん「まめ」という形容とはほど遠いところにいる人であるが、なぜか年賀状だけは毎年写真を加工し、挨拶文を入れ、印刷までしてくれる。私はわりといろいろなことにまめであるが、年賀状づくりは面倒でしかたがないと思っているのでとても助かる。
さて、「でーきた」の声を聞いて見に行ってびっくり。その年の夏旅行の写真を使うのはいつもと同じであるが、来年のはモナコで撮った二枚の写真をかっこよくレイアウトしている。A Happy New Yearのフォントもおしゃれでいい感じ。こんな凝ったことができるんだとすっかり感心してしまった。

……が、ひとつ大きな難があった。
これまでの年賀状には風景写真を使っていたのだが、今回初めて人物入りの写真を採用した。F1モナコグランプリのコースとして有名なトンネルをバックにふたり並んで撮ったものなのであるが、その私の顔がいまいちなのだ。夫はいつもどおりの顔なのに、私はいつもよりぜんぜんいけていない。しかも画像サイズを調整する際に横に引っ張ったらしく、なんとなく太って見えるではないか。
これが百何十枚も全国にばらまかれるなんて……。
「こんな顔やだ!写真差し替えてよお」
「大丈夫、いつもと変わらないよ」
「それにこんなワイドテレビに映ったみたいな体型、やだー!」
「そんなに違わないと思うけど……」
「そんなわけない、ほら、車のタイヤだって心もち楕円形に見えるじゃないの」

ああ、男性にはわかるまい。一ミリでもきれいに写りたいと考える女心なんて。
旅先で夫が私の写真を撮ってくれることがある。それはいいのだけれど、不満なのは「撮るよ」と声をかけてくれない、あるいはこちらの用意ができる前にシャッターを押してしまうこと。だから彼が撮った私の写真はあさっての方を見ているものばかりだ。
「自然体のほうがいい」と夫は言う。しかし私としてはありのままではなく、ありのままよりちょっぴりでも美人に写りたいの。
観光名所やすばらしい風景の中では「ここにはもう二度と来られないかもしれない」という思いからその欲求が強くなる。だからその前にちょっと髪や服を直したいし、笑顔だってつくりたいのだ。いつのまにか撮られていたというのではお気に入りの一枚にはなりにくい。
私は記録することが好きなので、写真も好き。いつも写真うつりが悪いというわけでもない。けれどもたまに「いくらなんでもこれは……」と言いたくなるようなひどいものもあり、そういうのは即ゴミ箱行きだ。残しておいたらそのアルバムを開きたくなくなってしまうもの。
女性のエッセイを読んでいると、雑誌やテレビに出た際のうつりが悪くてショック……というぼやきがよく出てくる。先日読んだ林真理子さんのエッセイにも、週刊誌にいい加減な記事を書かれたことよりもそれに添えられていた写真が現在よりも何キロも太っていた頃のものだったことに怒っている話があって、その屈辱はおおいに理解できると思った。

……なんて言ったら、男性のこんな声が聞こえてきそうだ。
「写真うつりが悪いんじゃなくて、実物がそうなんだ。写真は嘘をつかないよ」
たしかに、本物の美人はあくびをしているところであろうが眠っているところであろうが決してブサイクには写らない。が、並レベルの女性の場合はちょっと油断すると納得のいかない写真が生産されてしまう。だから、みな撮られるときは細心の注意を払うのである。
「今日は写真を撮るとわかっている日は白っぽい服を着るようにしている」と言う友人がいる。膝の上に白いハンカチを広げるとそれがレフ板の役目を果たして顔が明るく、肌が美しく写るという話は有名であるが、同じ効果を期待しているのだ。
また、中山美穂さんにそっくりの美人なのに惜しいことに顔がとても大きい別の友人は位置取りに余念がない。小顔の人の隣を避けるのはもちろんのこと、写真の両端は横伸びするので中央に陣取るそうだ。そしてややあごを引く。
自他とも認める「写真では美人」の友人が言うには、「顔をつくることを照れてはいけない」とのこと。
おおげさなくらいの表情が写真で見るとちょうどよいのだ、シャッターを押す人に「わあ、顔つくってるよ」と思われる恥は一瞬、でも写真は一生残るんだから、と。うん、なるほど。
免許更新センターで彼女の言葉を呪文のように唱えたので、私の免許証の写真はまあまあである。


しかし、最近大失敗をした。
パスポートの更新に行ったのだが、当日写真をお願いしようと思っていた写真屋さんが休み。ほかを探している時間がなく無謀にも駅の三分間写真で調達したら、新しいパスポートは夫にも見せられない代物になってしまった。
自動写真機に実物とは似ても似つかぬ美女に撮ってくれなんて注文はしない。でもさ、一応七百円払っているんだから、せめて実物通りに撮ってくれたっていいじゃないの……。
この先十年もこの顔で行かなくてはならないなんて本当に憂鬱だ。