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2006年07月21日(金) 揉め事の種

林真理子さんのエッセイを読みながら、笑ってしまった。
林さんはタクシーに乗るとまず「クーラーを弱くしてください」とお願いするくらいの冷房嫌い。一方、夫は「部屋を十七度くらいにぎんぎんに冷やして、布団をかぶって寝るのが理想」というくらいの冷房好き。寝る前にこっそりクーラーを消しても、じきに寝苦しさで目を覚ました夫にスイッチを入れられてしまう。そのため体調は崩すわ、夫婦ゲンカは絶えないわで散々である……という内容だ。

「どこの夫婦もおんなじなんだなあ!」とちょっぴりうれしくなる私。
というのは、昨夏私はまったく同じ体験をし、それで寝室を分けるの、分けないのと書いているのだ(2005年7月15日付「夫婦の寝室事情」)。

* * * * *

数日前、夫が小ぶりのダンボール箱をかついで帰ってきた。なにかと思ったら、冷風機。会社に置いていたのがいらなくなったから、と夫。
「えっ、こんなん買うて席で使ってたん?」
「だってこんなものでもなきゃ、暑くて仕事にならないんだもん」
夫が不満げに言うには、寒がりの女性社員がクーラーの温度を高く設定するため部屋がちっとも涼しくない、自分や他の男性社員が温度を下げてもすぐに元に戻されてしまう……ということだ。

つまり、男性陣の言い分はこうらしい。
「好き好んで薄着して、裸足みたいな足元してる女のほうにどうして俺たちが合わせなきゃならないんだよ?長袖のシャツ着てネクタイ締めて、長ズボンに靴下、革靴を履いてるこっちの身にもなってくれよ」
なるほどねえ、と頷く。襟ぐりの開いたカットソーや半袖のブラウスを着ている人と、Tシャツとワイシャツの重ね着にネクタイの人とでは、“適温”が同じであるはずがない。
男性はそれ以上薄着にはなれないわけだから、彼らが「寒いなら、なにか羽織ってくれ」と女性に言いたくなる気持ちはよくわかる。

しかしながら、私には女性たちのこんな声も聞こえてくるのである。
「どうして夏にカーディガンなんて着なくちゃなんないわけ。あんたたち、省エネって言葉知らないの?それに、サンダルをいま履かなくていつ履くっていうのよ」
完結している装いの上に寒さしのぎのために適当なものを羽織るというのは、あまり心躍ることではない。私も女のハシクレ、彼女たちの反発は理解できなくはない。

男がクーラーを強めれば、女はそれを弱めに席を立つ。いたちごっこで埒があかないため、夫は小型の冷風機を買って自分の足元に置いた。
でもそれが不要になったということは、両者が歩み寄って問題が解決したということなのね?
「いや、最近席替えがあって、新しい席が冷気の吹き出し口のそばになったから」
なんだ、そういうことか。
……とがくっとしつつ、「ま、そうよね。そう簡単に折り合いをつけられる話じゃないものねえ」と納得する私。

冒頭の「どこの夫婦もおんなじ」に話を戻そう。
私の夫も異常な暑がりである。やたらと汗をかき、夏場は「暑い」以外の言葉を忘れたのではないかと思うくらい口数が減る。それだけならいいのだが、気が立って怒りっぽくなるから困りものなのだ。
そんなに夏が苦痛ならクーラーを買ってちょうだいよ、と思うのだが(なんと、わが家にはクーラーがない)、なぜか彼はそうしようとはしない。そのかわり、帰宅するなりリビングのカーテンを全開にするのだ。
「やめてよ、そんなことしたら家の中、丸見えやんっ」
「そんなこと言ったって、風が入らないんだもん」
「私、ひとりでいること多いし、ここ一階なんやから用心悪いやろー」
私も暑いのは大の苦手であるが、夏が嫌いなのはくだらない夫婦ゲンカが増える季節だからだ。

しかしながら、夫の機嫌が悪くなり、その態度に私がぷりぷりする……のは夏だけではない。
寒いのもだめな私は三月の終わりまでファンヒーターやコタツが手放せないが、夫はすぐに「熱い、熱い」と言ってスイッチを消してしまう。
「ちょっとォ、熱けりゃコタツから出りゃいいでしょー」
「そんなに寒いのなら、もっと服着ればいいじゃないか」
「なんで家の中でそんなモコモコの格好せなならんのよ」
と言い合いがはじまるわけだ。

では、夏と冬をしのげば夫婦仲は安泰かというと……。
これがそうでもないんだなあ。雨の日も夫は「むう」という感じになるから。濡れるとスーツのズボンの折り目がなくなり、よれよれになるのが嫌らしい。
だから、私は目を覚ましたときに雨音が聞こえるとものすごく憂鬱になる。先日駅まで車で送って行けと言うのを拒んだら、四日間口をきかないケンカに発展してしまった。


夫婦間で味つけの好みや見たいと思うテレビ番組がかけ離れているといろいろと不具合が生じるものだが、心地よいと感じる気温に差がありすぎるというのも立派な揉め事の種になる。
……ということを一年のうち二百日くらい実感している私である。
(でも冷風機を持って帰ってきてくれたから、扇風機の取り合いはしなくてすむようになりそうだ。かなりめでたい)

※お暇なら読んでね。参照過去ログ 2005年7月15日付「夫婦の寝室事情」