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2006年04月26日(水) 男性の「妻」を持つ男性(中編)

※ 前編はこちら

「誰かいい人いませんかあ。出会いがなくてー」
友人がAさんに甘える。それを聞いて、つい口をはさんでしまう私。
「違うやろ、あなたの場合は出会いがないんじゃなくて、出会いはあるのにみすみす捨ててるの」
「だってえ……」

好きな人はたえずいるのであるが、「はずかしい」「無理っぽい」「時期尚早」などと言い、彼女は自分からアクションを起こしたことがない。そうしているうちに相手に彼女ができたり結婚したりして、その恋は終わる。
私は「気持ちを伝えるのは片思いを成就させるための最大の努力」と思っているので、十数年間同じことを繰り返し、「出会いがない」と嘆く彼女を見ているとイライラすることがあるのだ。
すると、私たちのやりとりをにこにこしながら聞いていたAさんが友人に言った。

「恋愛っていうのはね、回転寿司なんだよ」
「回転寿司?」
「そう。食べたいものが回ってきても、ぐずぐずしてたらすぐに流れてよその客に取られちゃう。もし誰にも取られず一周して回ってきたとしても、そのときにはネタは乾いちゃってて、もうあんまりおいしそうじゃなくなってる。だからね、『おいしそう』と思ったら、目の前にきたときにぱっと手を伸ばして取らなきゃだめなの」

そして、こう言い足した。
「でもそんなに結婚、結婚って焦らなくてもいいと思うけどなあ。わたしはね、結婚は四十くらいになってからするのがベストなんじゃないかって考えてるの」
「そんな、遅すぎますよお」
「子どものことを考えたらのんびりできないっていうのはわかるんだけど。でもね、たとえばはたちのときの自分と四十のいまの自分を比べたら、ぜんぜん違うんだよね。価値観とか好みとか、中身がまだ固まってない頃に選んだ相手と五十年満足して暮らせるかって考えたら……むずかしいかもしれない。だからわたしは、いろんな人と付き合いながら年齢を重ねて、ある程度成熟してからコレと見定めた人と結婚するっていうのが長い目で見たときに自分を幸せにすることになるんじゃないか、なんて思ってるの」

なるほど、一理ある。
私は二十八で結婚したので、恋愛の現役期間は正味十年くらいのものだが、その間に付き合った男性の中には「ものを知らない頃だったからすてきに見えたんだなあ」と振り返る人もいる。
当時はとても好きだったが、もし彼と結婚していたら。一生仲良く幸せに暮らせたとはとても思えない。何年か前に同窓会で会ったとき、離婚調停中の妻についての愚痴を並べ立てられ、「この人と結婚しなくてよかった」と思ったことがある。
もし婚姻年齢が法律で「三十歳以上」と定められていたら、離婚件数はかなり減少するかもしれない。
……なんてことを考えて頷いたら、Aさんがあわてて付け加えた。
「あっ、わたしはうちの奥さんを選んだこと、後悔してるとかそんなんじゃないからね。結婚したのもこないだだし……」
Aさんと奥さんは大学の同級生なのだ。でも誰もそんなこと勘ぐっていないのに、ひとりであたふたしているのが可笑しい。

* * * * *

ところで、奥さんと知り合った頃はAさんはゲイではなかったそうだ。彼女もいるどこにでもいる男の子だったが、「目覚め」は突然やってきた。
ある日、デートしてアパートに帰ってきたらびっくり。カーテンは破れ、窓ガラスは割れ、机が引っくり返っている。家の中がぐちゃぐちゃになっていたのだ。
「泥棒にやられた!」
真っ青になって同居していた友人の部屋を開けたら。彼がさめざめと泣いており、自分がやったと言うではないか。
いったいどうして……。愕然として訊いたら、いまごろ君が女の子とデートしているんだと思ったら嫉妬の感情を抑えられなかった、と涙ながらに彼が言った。
Aさんはそのとき初めて友人が自分を好きなのだということに気づいた。肩を震わせて泣いている彼がとても愛しくなり、「コイツは俺が守ってやらなくちゃ」と強く思ったのだそうだ。
その同居人の彼が、奥さんである。 (つづく