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2006年04月17日(月) 「立ち会い出産」のイメージと現実(中編)

※ 前編はこちら

「じゃあさ、もし立ち会い出産にしようかどうしようか友達に相談されたら、どう答える?」

私の質問に、「うーん、男の人によるからなあ……」と妹。
夫も立ち会いたいと言ってくれているということなら勧めるけれど、夫が乗り気でないのに妻の希望だけでそれに決めるのは考えたほうがいいかもしれない、と。
「血を見るのがだめって男の人、けっこういるやん?かなり凄まじいからねえ……。私の友達にも、立ち会いしてもらおうと思ったのに『自分にはぜったい無理』って拒否された子いるよ」

そんな話を聞くと、
「なぬー、なんちゅう情けないことを!奥さんのほうがその何倍も怖いのに」
とつい一喝したくなる……けれど、男の人が尻込みするのもまあわかる。だって私も出産経験者の話を聞きながら、「もうっ、もういいよおー!」と耳を覆いたくなったことがあるもの(もっとも、彼女たちはおもしろがって私を怖がらせようと誇張してしゃべっているのだと思うが)。
そのとき腰から下はカーテンで仕切られていて見えないようになっているのだと私は想像していたのだけれど、妹によるとそんなものはなく、腰の位置に立っていた彼女の夫は出産に至る一部始終を目の当たりにしたという。
「こっちは必死でなにがなんだかわからんかったけど、平常心の人が目の前で会陰切開するとこなんか見てしもたら、そりゃあ怖いやろうと思う。○○君、ハサミの音もはっきり聞いたらしいわ」

中には気分が悪くなって途中で退室したり、さらには過度の緊張で失神したりする夫もいるそうだ。苦しい呼吸の中、手を握ってもらおうと妻が傍らに目をやると夫は顔面蒼白、あちらがこちらの手を求めていた……なんて笑い話にもならないよなあ。
それでもほとんどの夫はなんとか乗り切るのであろうが、嫌がっているのを「あなたが父親なんだから」と無理やり付き添わせるのは少々酷かもしれない。
まあ私なら、「それでも夫かー!妻の力になりたいとは思わんのかー、このナンジャクモン!」といっぺんくらいは叫ばせてもらうだろうけれど。

* * * * *

冒頭の質問に先述の同僚(前回参照)も妹と同じ答えだったのであるが、彼女は上に書いたのとだいたい同じことを理由に挙げた後、こんなことを言った。

「それにね、立ち会ったことでだめになっちゃう男の人もいるらしいよ」
「だめってなにが?」
「出産シーンってはっきり言って、“モロ”やねん。それを見たショックで妻に性欲を抱けなくなる夫がいるって聞いたことがある」

つまり、女として見られなくなるってこと?文字通りおなかを痛めて必死の思いをして産んだ妻にその仕打ち?なにそれ、冗談じゃないわよ。
真に受ける気になどならない、ばかばかしい話である。
しかし、彼女は「でも実際、そういうのを不安に思って出産を見せたくないって言う女の人もいるよ」と言い、それから「うちのだんなさ……」と声のトーンを落とした。
えっ、まさか?

「後から聞いたら、しばらく肉をよう食べんかったらしいねん。突っ立って見てただけやのに笑うやろ。でも、もっとデリケートな人はあっちの欲求も減退するのかもしれんね」

ええええ。
そりゃあ現場は臨場感たっぷりなのだと思う。前編にいただいた出産経験のある女性からのメールにも、「スプラッタ」「血みどろ汗みどろ」といったおどろおどろしい言葉があった。
でもだからってあんまりじゃないか?同僚は「足のほうじゃなくて頭のほうに立ってもらってたら、ふつうは心配ないと思うけど」と付け加えたが、私は「どこに立ち、なにを見せられようが!」と言いたくなった。
それとも、そういう拒絶反応は理屈ではなく生理的なものだから、男性にもどうしようもないのか。
だとしたら、やっていられないよなあ……ぶつぶつ。 (つづく