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2006年01月25日(水) 女ふたりの温泉旅行(後編)

■こんなはずでは
当たり前といえば当たり前なのであるが、いかに部屋が妄想と一致していようと(前編参照)、「一緒に行く相手」の部分が違うとストーリーはまるで変わってくる。
新聞のテレビ欄を見て、「おっ、今日は九時から『釣りバカ日誌』がある」と言ったら、すかさず「そんなん見いへんでっ」と彼女。
そりゃそうね、ゆっくりごはん食べたいし、お湯のはしごもしなきゃならないし、なにもこんなところに来てまでテレビ見ることないわよね。
と頷きかけたら。
「九時からは土曜ワイド劇場見るで!混浴露天風呂殺人事件、古谷一行と木の実ナナのこのシリーズ、昔から好きでさあ」
結局、夕食の後はふたりでこたつに入りながら、「犯人は川島なお美やな」「でもアリバイあるで」「それはやなあ……」なんて言い合いながら見た。この手のドラマはひさしぶりに見たけれど、露天風呂でのサービスショット(若い女性の胸ポロリ)はいまも健在で笑ってしまった。
ああ、これが旅先のこんな素敵な部屋ですることだろうか。

テレビの後は本日最後のお風呂。プライベート露天風呂はふたりで入るのにちょうどいい大きさだ。
とはいえ。本館の大きな露天風呂には一緒に入ったけれど、相手が彼女では部屋のそれまで一緒に、という気にはならない。私は文庫本を持ち込み、家と変わらないお風呂タイムを過ごしながらつぶやく。
「女同士で泊まるにはもったいない部屋よね……」
そうしたら、寝るとき友人も同じことを言っていた。

そうそう、寝るときと言えば、私はこの夜ほとんど眠れなかったのだ。
理由は彼女のいびき。それがもう、すごい音量なのである。彼女とは何度も一緒に旅行をしているが、いつもこう。
彼女は「おやすみ」を言うと三十秒くらいで寝てしまったが、私は気にすまいと思えば思うほどだめ。「ぐおーがお−ずぴー」とあまりに遠慮がないので、よほど顔の上に座布団を載せてやろうかと思ったが、そんなことをして朝冷たくなっていても困るしなあ……と思いとどまったら、徹夜になってしまった。
男性と泊まって寝かせてもらえないのは望むところだけれど(キャッ)、こんな理由で寝不足になるのはぜんぜん歓迎じゃない。

目をつぶっていたら女性から発せられているとはとても思えない、轟音を聞きながら思う。
寝相が悪いのはまだ愛嬌がある。「しょうがないなあ」なんて苦笑しつつも、彼は愛しげに恋人の飛び出た足に布団をかけてやったりするのだろう。
しかし、いびきというのはどうなんだろう。百年の恋も冷め……とはならないとは思うけれど、初めての夜にこれをやられたら、男性はけっこうショックなのではないだろうか。

■熊野古道
次の日は雲ひとつない快晴。関東は雪がひどいらしいと聞いたが、こちらは風もなく、日の当たるところは暖かくさえある。
荷坂峠の登り口までホテルの車で送ってもらい、フロントでもらった地図を片手に二人でてくてく歩く。この時期なので他に観光客もおらず、道に迷いながら、歌を歌いながらの楽しい散策。
ところで、写真に写っているのは全部ひのき。熊野古道は杉とひのきの林の中にあるのだ。
来月のいま頃はこの美しい石畳の峠道も恐ろしくて近づけない場所になっているだろう……くしゅん!


強制的に旅の思い出に付き合わせてしまいました(スミマセン)。次回から通常営業です。