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2005年10月21日(金) 私はあなたの友だちではない

向かいの席の派遣社員が顧客との電話を切ったとたん、課のリーダーである女性社員がやってきた。やりとりを聞いていたらしく、彼女にダメ出しをはじめた。

「自分で気づいてるかどうかわからないけど、○○さんの話し方はすごくネチャーッとしてるのね。『よろしいですかァ』とか『コレコレなのでェ』とか、語尾がだらしなく伸びる。はっきり言うと、話し方に清潔感がないの」

向かいの彼女には申し訳ないけれど、「清潔感がない」という表現に、うまいこと言うなあ!と心の中で膝を打った。
実は、彼女の話し方は私も気になっていた。たしかに爽やかさもないのだが、「うん」「はあ」と相槌を打つこともしばしばで、電話の向こうの客の表情をつい想像してしまうことがあったのだ。


接客業の経験があるせいか、わりと応対が気にかかるほうだ。
先日美容院に電話をかけ、何時頃が空いてますかと尋ねたところ、「は?」と返ってきたのでびっくりした。
客に向かって失礼な、と言いたいのではない。誰が相手であろうと、何かを訊き返すときにそれはないだろう。

感じが悪いといえば、笑いながら話されるのも好きになれない。
もちろん、「あははは」と笑いながら接客する店員や社員はいない。この場合の笑いとは、苦笑のことである。
「鼻で笑う」というほど露骨なものではない。しかし、「何言ってんだか、この人は」「これだから素人は……」といった感情が仄見えることがある。そのとき、店員の顔や声は「困った人ね」を隠しきれずにかすかに笑っているのだ。
本人にそんなつもりはないのだろうが、なんだか小馬鹿にされたような気分になる。

あるいは。服や靴を買いに行くと、女性店員にものすごくなれなれしく話しかけられることがある。
「よくお似合いですよ」と言われたら、えへへ……じゃあ買っちゃおうかな?となるが、「ウン、それすっごくいい!」にはしらーっとなる。ただでさえまとわりつかれるのは好きでないのに、タメ口なんてきかれたら一気に買う気が失せてしまう。
化粧品売場の店員に「これなんかどう?カノジョ、色白いから似合うと思うよ」と口紅を差し出されたときも、見ず知らずの、しかも明らかに年下の女性にどうして“カノジョ”と呼ばれるのかがわからなくて、そのまま店を出てきたっけ……。
それが彼女流の接客なのだろう。フレンドリーに寄って行ってアドバイスすることで、喜ぶ客もいるのだと思う。たしかに彼女の見立てた色は悪くなかった。
でも、私はあなたの友だちではない。

* * * * *

これは客が店員に接するときにも言えることだ。
昔、ちょっといいなと思っていた男性が家まで送ると言ってくれたのだけれど、タクシーに乗り込み、彼が親ほどの年の運転手さんにタメ口で行き先を告げたとき、残念だなと思った。
客だからといって、縮こまることもふんぞり返ることもない。相手が年上であろうが年下であろうが、見ず知らずの人間であるという点をわきまえて、「です、ます」で話す。それが断然知的でかっこいい。

人と人の間には「間合い」というものがある。
たとえば店員と客、先生と生徒、親と子。初対面だったり、年齢や立場が違ったり……。
それぞれの関係にふさわしい言葉遣いや態度があるはずで、なんでもバリアフリーなのが好ましいわけではない。