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2004年08月18日(水) スイス旅行記(前編)

みなさん、お盆はいかがお過ごしでしたか。ただいま帰りました、小町です。
九州をひと回り大きくしたくらいの国をレンタカーで回る旅。昨年フィヨルドを見るために北欧を旅したとき、運転できないわ、地図は読めないわ、車酔いするわでなんの役にも立たず、夫から「重しを乗せてるみたいなもの」と言われた私であるが、今年は名誉挽回を目論む。道路マップを膝の上に広げ、夫が告げる町の名を必死に探す。
が、地図を読むコツをまるで持たない私は次の標識が現れるまでにその地名を発見することがどうしてもできない。
「ジュネーブ、ジュネーブ……」
「西の方角だよ」
「んー、この地図にジュネーブは載ってないわ」
この会話から小町ナビの性能のほどはお察しいただけると思うが、それでも八日間で九百八十キロを走破。すばらしい旅をしてきました。本日はスイス旅行記にお付き合いください。

頂きに雪を残すアルプスの山々、緑のアルプ(牧草地)に点在する山小屋風の家、エーデルワイスの白い花、のんびりと草を食むカウベルをつけた牛、穴のあいたチーズ、アルプホルン、首にブランデーの入った箱をぶら下げたセントバーナード。
すべてこの目で見てきた。ここまでイメージと寸分違わなかった国はほかにない。
とはいうものの、へええ!と感嘆したことはいくつもあった。たとえば、家々の窓辺にゼラニウムやペチュニア、ベゴニアの花が見事に咲き誇っていたこと。
茶色い木の家に赤やピンクはとてもよく似合い、本当にかわいらしい。どんな小さな村を通りがかっても素晴らしくていねいに手入れされていて、私は感動のため息をついたものだ。
が、その一方でこんな疑問も浮かんだ。
「この国には花の世話が苦手だったり、面倒だと思う人はいないのだろうか」
と思っていたら案の定、町並みを美しく保つことに協力するよう定められた条例があるのだそうだ。花の手入れを怠ると、市町村から派遣された庭師がやってきて、罰金とその実費を請求されるという。
そうだろうなあ、だってあまりにもきれいなんだもの……と頷きつつ(もっとも、テラスで水やりをしたり花殻を摘んだりしている人たちが渋々やっているようにはまるで見えなかったけれど)、京都に住んでいた頃、やはり景観を守るために大通りに面したベランダには布団が干せなかったことを思い出した。
そして、もうひとつ驚いたこと。それは人々がペットの犬をどこにでも連れて行くことだ。
電車に乗せて三千メートルを超える山の上にも同行するし、店で買い物や食事をするときも然り。シェパードやドーベルマンといった強面の大型犬でも、観光地の人ごみの中を遠慮なく連れ歩く。その扱いは人間の子どもとまるで同じなのだ。
マッターホルンを見た帰りのロープウェーで、誰かが私の足の上に荷物を置いた。ふと視線を落とした私はひええと飛び上がりそうになった。「伏せ」をした大きな真っ黒のボクサーが私の足の甲にアゴを乗せて眠っていたのである。
車内は日本の通勤ラッシュ時の電車なみに混雑している。誰かが彼の尻尾でも踏み、怒って私の足を噛んだりしないだろうかと心臓がドキドキ。が、飼い主がまったく意に介さぬ様子であるのを見ているうちに、「この犬は絶対に人を噛んだりしないんだな」と。
日本で公共の乗り物に犬を乗せたり、レストランに連れて入ろうものなら、「危険だ、不衛生だ、非常識だ」という投書がすぐさま新聞に載りそうだが、あちらの人を見ているとそういうことはまったくなさそうだ。
実際、犬たちの行儀のよさには感心する。犬同士すれ違っても吠えないし、主人がものを食べていても欲しがらないし、他人に触られても嫌がらない。本当におとなしいのだ。
人に迷惑をかけないという自信があるから、飼い主もああやって連れ出せるのだろう。あちらでは子犬のときにプロに躾をしてもらうのであろうか。
電車やバスは時刻通り発車するし(スイスの鉄道は安全、正確、清潔という点において世界一なのだそうだ)、店で釣り銭をごまかされることもない。トイレは清潔でペーパーが必ず備えつけてあるし、人々の環境保護の意識も高くアイドリング・ストップが徹底している。
海外に出かけるとしばしば感じる「大味」なところがまるで見られない。すべてにおいてきちんとした印象で、信頼の置ける、実に居心地のよい国であった。

というわけなので、ラブレター・フロム・スイスをリクエストしてくださった方々のお手元には間違いなく絵ハガキが届くと思います。定規を用意して(意味は受け取ったらわかるかと)待っててね。
次回、この旅でもっとも印象に残った場所の話をさせてください。

【あとがき】
そうそう、意外だったことといえばハエがやたら多かったことですね。ルツェルンの市場でスイカを見つけ、「スイスにもあるんやー」と近づいたら、種が一瞬にして消えた。種に見えた黒いものはスイカに群がるハエだったのです。どんなに清潔で美味しいレストランでもハエがぶんぶん飛んでいる。これがなければどんなに心安らかに食事ができたことでしょう。でもチーズを使ったスイス料理を食べてきましたよ。フォンデュもラクレットもほんとに美味しかった。