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2004年05月20日(木) 右か、左か

先日、家で使うためのめがねを買いに行ったときのことだ。
接客がとてもていねいな店だったので、私の写真にいろいろなデザインのめがねを重ねていく「バーチャル試着」なるものをさせてくれたり、検眼のときの「赤と緑、どちらがはっきり見えますか」の意味を教えてくれたり、と発見の多い楽しい時間を過ごすことができた。
なかでも面白いなあと思ったのは、腕や足と同じように目にも右利き、左利きがあるという話だ。両目で均等に物を見ているつもりでも、実はどちらか一方がひそかに主導権を握っているらしい。
その見分け方。両目を開けた状態で正面に手を伸ばし、指でOKサインを作る。丸の中になにかターゲットを収め、腕を動かさないよう注意しながら片目ずつつぶる。このときターゲットが丸の中から外れない方の目が「利き目」だ。
私は左目という結果が出たのだけれど、そういえばカメラのファインダーを覗くとき、自然に右目をつぶっていることを思い出し、なんだかとても納得してしまった。
と同時に、数日前からまるで寝違えたように首が痛かった理由がひらめいて、膝を打った。
会社の近くに美味しい串カツを食べさせてくれるところがあるというので、職場の同僚六人で出かけた。すると、どういうわけか案内されたのはカウンター。
「予約してたのになんで?」
「この席でどうやってしゃべれって言うん」
しかし、何週間も前から「今日は串カツ」と楽しみにしていた私たち、いまさらほかの店を探す気にもなれない。結局、六人横一列に並んで食べることになった。
さて、あなたは「利き顎」というのをご存知だろうか。ガムを口に入れたときに最初に噛んだ側がそうなのであるが、それによって体を向けやすい方向が決まる。右が利き顎であれば右側に首を振りやすいということになる。

あなたのいない右側に
少しは慣れたつもりでいたのに
どうしてこんなに涙が出るの
(M/プリンセス・プリンセス)

さよならと言った君の
気持ちはわからないけど
いつもよりながめがいい
左に少し とまどってるよ
(もう恋なんてしない/槇原敬之)


歌詞の中にもこうした描写をしばしば見かけるし、たしかに街で見かけるカップルも「男性は右、女性は左」という図が多い気がする。しかし、実際には利き腕と同じように利き顎も右の人が多いというから、男性は実は知らず知らずのうちに無理をさせられているのかもしれない。
かくいう私も相手の右側にいるとなんとなく落ちつかない。男性と歩いていてちょっといい雰囲気になったとしても、さりげなく腕をからませるような真似はできない気がする。
その昔、私と同じく自分が左でないとしっくりこないという男性と付き合っていた頃は、デートのたびに熾烈な“左争奪戦”を繰り広げたものだ。さりげなさを装いつつ、互いに隙あらば相手の左側に回ろうとするものだから、歩いているうちにどんどん左に寄っていく。しまいには道の端で縦列になって歩いていたりするので、後ろから見ていた人はさぞかしおかしなカップルだと思ったことだろう。
よって、カウンターで食事をするようなときも私は必ず左側をキープするのだが、串カツの店では「えー、そんなあ」とかなんとか言っているうちに、気がつけば一番右端の席に座っていた。そこで三時間近く首を左にひねって話しているうちに、すっかり筋肉痛になってしまった……というわけだったのだ。
もし今後なにかの折りにあなたが私とそのようなシチュエーションになることがありましたら、おとなしく左を明け渡してくださいな。と、ここで言っておこう。

【あとがき】
「相手の左側が好き」というのにも例外があります。男性がさりげなく水たまりがあったり車が通る側を歩いてくれたりすると、私は気づかないふりをしますが、内心とてもぐっときています。