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2004年01月30日(金) 賽の河原に石を積むような

渡辺淳一さんのエッセイの中に、「自分は編集者泣かせの作家である」というくだりを見つけた。担当編集者から「渡辺さんの原稿は手直しが多い」とよく言われる。最初から完成度の高い原稿を渡せばよいことはわかっているのだが、書き終えてすぐは推敲する気になれず、そのまま編集者に渡してしまうためだ……という内容である。
結果、手書きの原稿をゲラ(仮刷り)にし、その後決定稿にするまでの間に毎回かなりの訂正を繰り返すことになるのであるが、それについて渡辺さんは「自分の字で原稿用紙に書いたものと活字になったものとでは雰囲気が違い、さらにきちんと印刷して組まれるとまた様子が変わり、その都度直したくなるのだ」と“言い訳”している。
それを読み、私は思わず「わかるなあ、それ!」と声をあげた。プロの作家と同じだと思うなんて図々しいにもほどがあるが、それはちょいと横に置いておき、私も手直しのものすごく多い日記書きである。えっへん。
私はまずワードで下書きをする。いつもだいたい一ページ半、文字数にして約二千字。二ページを超えたときは前編と後編に分ける。
たいていの人はパソコンに向かう前にその日何を書くか決めていることだろうと思うが、私もまたあらかじめキーになる言葉や挿話をテキストに挿入する順に頭の中に並べておく。私は自分のテキストをそのいくつもの“点”を結んでできた多角形だとイメージしている。下書きの段階ではそれはずいぶんいびつな形をしているが気にせず、夜のうちにとにかく最後まで書いてしまう。
そして翌朝、その粗削りなテキストの角を取るべく紙やすりをかけていく。「ごつごつ」具合が許せるレベルになったところでテキストをホームページ作成ソフトに移す。プレビューで実際にモニターに表示される姿を確認しながら改行などを加えていき、ようやく完成という流れだ。
渡辺さんの「書き上げたら読み返すことなしに編集者に渡してしまう」というのは、私がワードの下書き状態のテキストをアップするのと近いのかもしれない。
こんなことを言うのは「私はひま人です」と宣伝するようなもので恥ずかしいのだけれど、推敲という作業には毎回かなりのエネルギーを費す。時間の配分では下書き7に推敲3というところだろうか。
長文を読ませようとするなら、「できるだけ読みやすく」の部分に心を砕くのは当然だ。昨年末に開いたオフ会の席で参加者から「テキストがどんどん長くなってきてますね」と指摘され、うなだれた私。でも短くできないかわりにこういう形でめいいっぱい気を遣っているのよ……。
しかしここまでしても、アップしたばかりのそれをリンク集から飛んで読み返してみると、気にいらない点がぼこぼこ出てくるのだ。ついさっきまで、これでよしと思っていたはずなのに。しかたなくがしがし手直ししていく。が、悲しいかな、仕事から帰って読み返すとまた新たな不具合が見つかるのである。
ああ、まるで賽の河原に石を積んでいるみたい……といつも思う。
そういえば私はテストのとき、終了のチャイムが鳴る瞬間まで答案用紙を見直している子どもであった。

日記書きの友人と深夜にメッセンジャーで話をしていたときのこと。
私が「今日は日記書きがお休みだから気が楽だわ」と言ったら、書く日と書かない日を決めているの?とずいぶん驚かれてしまった。
私は更新を月・水・金の朝にすると決めている。月・木とか火・金だとなんだかゴミの日みたい。なので週三日。その日はいただいたメールに返信をするくらいでのんびりし、次の日の夜は新しい下書きをするというルーティンだ。
隔日更新。これは比較的無理が少なく、長文書きの私に適したペースだといえる。ネタもないのに書こうとすれば質が落ちるのは必至だし、それよりなにより遅筆な私が毎日そんなことをしていたら日記廃人になってしまう。
作家のエッセイには締め切りに追われてカンヅメになっているとか、徹夜して何十枚書き上げたといった話がよく登場するけれど、読んでいるだけでこちらまで疲労が伝染しそうだ。
こんな私が毎日更新なんて縛りを自分に課してしまったら、プレッシャーで続かなくなるのは目に見えている。よって書けない日は早々にあきらめるし、「さぼった」という気持ちになることももちろんない。
更新報告が午後にずれ込んでいたり、「今週はゴミの日更新になってる」と気づくことがあったら。下書きの出来が悲惨だったんだなと……いやいや、苦労したんだなと思って心して読んでいただきたい。
お。今日は八時台に更新できそうだ。

【あとがき】
というわけで、手直しするたび、はてなアンテナからお越しの方には申し訳ないなあと思っているのですよ。あれはたった一文字直しただけでもリストの最上にあがってしまうものだから。果物の缶詰は作ってから一年くらいたったものが味がしみて美味しいというけれど、この日記もアップ後一日経過したくらいが読みどきかもしれません。