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2003年07月25日(金) ひとりでは気後れする場所(前編)

仕事をしながら、ふと「ラーメンが食べたい」と思った。なぜか突然、無性に食べたくなったのだ。
終業のチャイムが鳴るや、左隣の席の仲良しの同僚に声をかける。
「Aちゃん。私、ラーメン食べたいんやけど」
「ふうん」
「……ってそれだけ?食べて帰ろうって誘ってるんやん」
「今日はだんなの帰り早いねん」
取り付く島がないとはまさにこのこと。いいもんと今度は顔を右に向ける。
「ねえねえ、B子さん。帰りにラーメン食べて帰ら……」
「ごめん、もう下ごしらえしてきちゃった」
そのとき、向かいの席のC君(二十一歳フリーター)と目が合った。するとなぜか彼は大慌てで首を振る。
「僕も今日はちょっと。おかんが晩はウナギやって言うてたんで」
悔しいっ、まだ誘ってもいないのに!
しかも、「ひとりで行ってきたらいいじゃないですか。うまいとこ知ってますよ、立ち食いですけど」としれっと言うではないか。あのね、行きたくても行けないからこうして頼んでるんじゃないの。晩ごはんにラーメンっていうだけで傍目にわびしさ満点なのに、そのうえ女ひとりでなんて。もし知り合いに会ったらどうしてくれんのよ。
すると、彼は素の顔で「ノープロっすよ。ねえさんならダスターでカウンター拭いてても違和感ナッシングだから」だって。この命知らずな発言で、彼はますます私の怒りを買った。
ひとりでのれんをくぐる勇気がない私にとって、店で食べるラーメンほど縁遠い食べ物はない。友人と食事の約束をし、ラーメン屋に行くことはまずない。提案しても「もうちょっとこましなものにしようよ」と却下されるのがオチだし、夫と外出した際に袖を引っ張ってみても「週末くらい別のものを食べさせて」と悲しげに言われてしまう。そんなこんなで、最後に外で食べたのはいつだったか思い出すことができない。
お持ち帰りもできないそれは、吉野家の牛丼よりも手の届かない存在といえるかもしれない。結局、その日私はまっすぐ家路に着いた。

ところで、ひとりでは気後れしてしまうといえば。
ときどきサイト上で「いついつオフ会やります。参加希望者は……」なんて告知をしているのを見かけるが、たとえばその書き手とそれまでに一度もコンタクトを取ったことがなくても、「私、参加します」と名乗りを上げる度胸のある人はどのくらいいるんだろうか。
先日日参しているとあるサイトでオフ会の告知を見つけ、思わず「わ、いいな」とつぶやいた私。そこには二種類の感情が込められている。
ひとつは「行ってみたいな」という読み手としての気持ち。
テキストが尋常な面白さでないことから、私は彼のことをやはり普通の人ではないにちがいないと踏んでいる。その途方もなさ加減というか、「どのくらいどうかしているのか」を実際にこの目で確かめてみたいと思ったのだ。
そして、もうひとつは「オフ会の参加者を公募できるなんてうらやましい」という書き手の立場から湧き起こった気持ち。
ネットの友人と話しているとしばしば思うことなのだが、どうやら私はモニタの向こう側にいる人たちへの関心が人一倍強いらしい。かねてより「日記の読み書き」という共通の趣味を持つ人たち、とりわけこのサイトを訪れてくれている人たちに会ってみたいという気持ちを持っており、カラオケとかボウリングとか、この時期ならバーベキューとかビアガーデンで騒ぐといったお気楽な集まりをたまにやれないものかしらと考えることがある。
いま私は日記の読み書き、メールやメッセンジャーのやりとりをめいいっぱい楽しんでいるけれど、ここで接点を持った人たちとのそういう形での“対面”はサイトを持つことで得られる楽しみの次なるステージ、いわばより進化した楽しみ方という気がする。
しかしながら、その実現はそう簡単ではなさそうだということは最近日記書きの友人と話したばかりである。彼女が言う。
「サイト上で参加者を募るってけっこうリスキーだと思う。ほんとはちっとも読んでないのに参加者の女性目当てで来るのとか、コイツ嫌いだからどこぞの掲示板にあることないこと書いてやれ、みたいなのが申し込んできたらどうするの。メールじゃ見分けつかないよ」
そういえば、女性主催のオフ会にその手の輩が来て困った、という話は何度か耳にしたことがある。
だけど、リスクのないところに可能性がないこともまた事実。じゃあ、たとえば以前にやりとりしたことがあることを条件にするとか。
「うん、そうしたほうがいいかもね。ところで、肝心の人数が集まるのかな」
痛いとこ突いてくれるわね、あなた。実は私もそれが気がかりだったの。こんな遊びを楽しそうだと考えるのは、私が特別お祭り好きだからって可能性大なんだもの。
「サイトを持ってない人なんてとくに気後れしちゃうんじゃない?横のつながりないし」
たしかに。知らない人だらけだとわかっている場所にひとりで参加するのはとても勇気のいることだ。私が先述のオフ会を見送ったのも、そのサイトが超有名どころであるうえにリンク集などにも参加していないため、きっと読み手の層が違うんだろうなと物怖じしてしまったからだ。
うん、でもほら、日記の読み書きってマイナーな趣味だから、実生活の友人の中に仲間を見つけるなんてまず不可能でしょ。だったら、同じ趣味の人がいたら知らない人でもしゃべってみたいと思わないものかしら。
「そりゃあ思わないことはないと思うけど、カラオケとかボウリングじゃ遠方からは来てもらえないでしょ。関西在住で読んでくれてる人、そんなにいる?」
あいたたた……。おっしゃる通りでございます。
【1】 大阪近辺にお住まいで
【2】 暇があって
【3】 こういうノリが好きで
【4】 会ってみたいと思う程度に小町さんに興味と好意を持っている
という条件を満たす人がそういるとは思えない。彼女のシビアな、いや、もっともなつっこみの前に私はうなだれた。

ま、とりあえず聞いてみましょうか。
「○月×日、梅田でボウリング大会やります」と告知したら、「あら、楽しそう」「日程が合えばね」という方いらっしゃる?もしいらしたら、下の緑色のボタンを押してくださいな。



平気、平気。これ、何人の方が押してくださったかをカウントするだけですから。
みなさんのメールアドレスはわかりませんので、「あなた、あのときボタン押してくれたわよね?責任持って来てくださいよ」なんてメールを送りつけたりはできません。安心して押してください。(結果は次回発表)

【あとがき】
実生活の知人・友人の中にweb日記の読み書きが趣味という人います?私はいないです。それどころか、web日記という言葉すら聞いたことがないのではと思います。私はこの日記の存在を実家の両親、夫を含め、実生活で私を知る人には誰にも明かしておらず、今後もそのつもりはないので、周囲の人がweb日記というものを知らないでいてくれるのはサイトばれを防ぐという意味では救われています。