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2003年07月17日(木) サイトの中の私

先日、うれしいことがあった。少々自慢っぽくなるのだが、ええい、書いてしまえ。
ある日の日記に、「おバカなテレビばかり見て夫をあきれさせている私。そのうち愛想を尽かされたらどうしよう。それでなくても、ふだんからなにも考えていないと言われているのに……」と書いたところ、「なにも考えていないと言われているですって?日記を読んでいるととてもそうは思えません」というメッセージがいくつか届いたのだ。私は感激のあまり、プリントアウトして夫の枕元に並べてやろうかと考えたほどである。
というのも、夫と話していると「この人は私という人間を大きく誤解している」と思う瞬間にしばしば出くわすから。彼には妻を全般的に不器用な人間だと思っているフシがある。
たしかに、お金の管理は苦手、車の運転はできない(免許はある)、政治経済に疎い、方向感覚のなさは救いようなし……など、なんでも卒なくこなす彼の目に鈍くさい女に映っていてもしかたがないと思う部分もある。が、妻を運動音痴だと思い込んでいる点についてだけは心の底から憤慨しているのだ。
夫の前ではじめて自転車に乗ったとき、彼は驚愕の面持ちでつぶやいた。
「自転車、乗れたんだ……」
当たり前だ。ウィリーだってできるわい。
しかし、彼は一事が万事その調子。なぜだか知らないけれど、私を金槌だと信じて疑わないし、十年つづけているエアロビクスのことも盆踊りに毛の生えたようなものと考えている。私としてはドラえもん音頭よりは武富士ダンスに近いと思っているので(まあ、ちょっとちがうけど)、とても悔しい。
たとえば見た目がものすごく華奢だとか、逆におデブだとかいうなら話はわかるが、私はどちらでもない。じゃあなにが彼にそう思わせるのか。
どうやら彼の脳には、過去スキー場で何度となく目にした私の醜態が強烈にインプットされているようなのだ。
私に言わせれば、スキーなんて高校の修学旅行でしかしたことがないのだから、板がひとりでに天を向くのも転んだ拍子にありえない方向に手足が曲がるのも、運動神経うんぬんの問題ではない。にもかかわらず、彼は雪だるまと化して、絶叫しながらゲレンデを落っこちてくる私の姿をつい何事にも重ね合わせてしまうらしい。
しかし、これがまた屈辱で。その手のことを言われるたびに大人げないと思いつつも、
「十二年間、体育では5以外もらったことがないんだから」
「器械体操以外はいつもクラスのお手本だったんだから(あれだけは体が固くてだめだった)」
「帰宅部のあなたより百倍は運動してきたんだから」
とまくしたてるのであるが、そんな姿はどうしてもイメージできないと首を振られてしまう。無念だ。

が、そううなだれつつも、私は夫にちっともいいところを見せていないのだからしかたがないのかもしれないな、とも思ったり。私の趣味はひとりでやるものが多いため、生き生きとなにかをしていたり得意分野で活躍しているところを披露する機会がほとんどないのだ。
エアロビクスはイイ線いっているのではないかと思うが、彼の前で踊ることはまずない。私がインターネット上でどんな文章を書いているか知らないから、妻だってたまにはまじめにものを考えることもあるというのをアピールすることもできない。これはかなり不利な気がする。
いただいたメッセージを読み返しながら、「ほれ見ろ、出るとこ出れば私だって」とつぶやいてはみたものの、実際のところは二年半も一緒に暮らしてきた相手に「あなたのそれは誤解だ」もない。彼の中にあるのはイメージではなく、実物そのもの。彼が妻を不器用だと思っているなら、やはりそうなのだろう。百%イメージでできているのは「小町さん」のほうなのだから。
そういえば、サイトを長くやっていると読み手の中で自分のイメージが固まってくるのでだんだん息苦しくなってくる……という話をよく耳にするけれど、いまのところ私にそういう感覚はない。それどころか、書けば書くほど私の中のある側面が強調されてゆき、結果として小町という人物のキャラが立ってくるのを興味深く感じている。
私はフィクションは書けないし、別人格を演じる器用さも持ち合わせていない。が、意図的にではないにせよ、実物の私のある部分が突出することによってつくられている「小町さん」はやっぱり架空の人だと思っている。
以前は読み手に本当の自分を知ってもらいたいと思ったこともあったが、自分の書くものでそれを望むのはむずかしいと知ってからはそんな気負いはない。それよりもいまはサイトの中に住む「小町」という名のキャラクターがテキストをエサにしてすくすくと育ってゆくさまを観察するのがおもしろい。
何かを書いて、「小町さんらしい考え方だなと思いました」なんて言われるのもまた楽しからずやだ。

【あとがき】
家族を含め、実生活の友人知人は誰ひとりここを知りませんが、もし読んだら驚くのではないかと思います。実生活ではあまり見せることのない側面がサイトの中では強く表れていて、「小町」という人の特徴になっているような気がしているので。実物の私はこんなにきつくないですから(もうちょっと可愛げあるもん)。サイトで知り合い、その後個人的に親しくなった方がどの程度ギャップを感じておられるのかはさだかではないけれど。