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2002年12月01日(日) ふたつの再会

今日は大学時代のサークルの同窓会だった。
OBを含めた会員数は三百を超えるマンモスサークル。創立記念日を祝うため、そのうちの約三分の一が大阪に集まった。
あと二週間足らずで三十一歳の誕生日を迎える私だけれど、これまで自分のことを「年を取った」と思ったことはない。「寄る年波には勝てんわあ」なんて冗談で言うことはあっても、心からそんなことを思っているわけではない。
しかし、昨日初めて、卒業してから八年という歳月が流れたことを実感した。「ああ、私も“ある域”に達したんだなあ」という深い感慨に包まれたのだ。
というのも、後輩たちがかわいくてたまらなかったから。わがサークルはもともと女性会員が極端に少ない。したがって、その対象は男性だ。現役時代はもちろんOBになってからも、彼らのことをかわいいだなんて思ったことは一度もなかったのに、今日は学年がひとつでも下だと「男の子」に見えてしかたがなかった。一歩外に出ればみな二十代の、すでに立派な青年だというのに。
「ちょっと聞いてください。けっこう仕事で苦労してるんですよー」
「ここだけの話ですよ、実はそろそろ年貢を納めようかと思ってて」
なんて話を聞くのが楽しくて。懐かしさも手伝い、よもやま話に花が咲き乱れた。

ひとつわかったこと。何年経とうが、人の中身は変わらないこと。
「久しぶりだね」
ポンと肩を叩かれ、振り返ると彼が立っていた。別れた人とは一切の連絡を断ち、疎遠になるのが常なので、実に十年ぶりである。
ぐいぐい引っ張ってくれる人に憧れていた当時の私にとって、三つ年上で会長をしていた彼はまさにビンゴだった。初めての彼だったこともあり、ふたりのスタンスは横並びではなく私が後ろからついて行くという感じだった。
彼は人間的に冷たいところのある人だった。けんかをしたとき、怒らせたとき、身が凍えるほど冷たい言葉をさらりと投げられた。
でも、それもとうの昔の話。私は素直に再会を喜び、いまどうしているのか尋ねた。
「それが離婚調停中でさ」
結婚は三年前、しかしすでに別居生活一年以上になるという。いったいどうして。
ぱっと浮かんだのは彼の浮気だったが、そういうわけではないらしい。会社を辞めて独立したことで生活が不安定になったことが原因だと言う。
「子どもはどうするの。かわいい盛りでしょう」
思わず口にしてから、しまったと思った。子どもと離れて暮らし、つらい思いをしているであろう彼に無神経なことを言ってしまった……。
しかし、彼は間髪入れず、あっさり言った。
「んー、数えるほどしか会ったことないんだよねー」
そこには「かわいいでしょう?」に対する答えがなかった。子どもへの愛情を肯定する言葉が見あたらなかった。
強がりが入っていたのだろうか。しかし、後にどんな言葉をつづけるにせよ、「そりゃあかわいいよ」は反射的に出るものだと思い込んでいた私にはショックだった。
彼は妻への不満を口にした。
「どうしてわかってくれないのかなあって思っちゃうよ」
久しぶりに聞いたこの言葉。あの頃、私もよく言われていたっけ。きっと私もこんなふうに、自分の知らないところで知らない女に愚痴をこぼされていたのだろう。
「でも、きっと奥さんも同じこと思ってるよ」
そう言ったら、彼は不服そうな顔をした。

「よろしければ、もうひとりの元彼ともお話しませんか?」
振り返るとこれまた懐かしい、六年ぶりの笑顔。冗談めかしてこんなことを言うところもちっとも変わらない。
「小町ちゃんにフラれて十キロ痩せたんだけど、彼女ができたらまた戻っちゃった」
よく言うよ、三十四にしてもうモウロクしちゃったの?フラれたのは私でしょ。
……と言い返したいところだが、これがこの人の優しいところ。そうよ、ディテールなんてどうだっていい。もうなにもかもまるごといい思い出なんだ。
「いまの彼女、十才年下なんだけど、とにかくかわいくってさ」
愛しげに彼女の話をする彼を見ていたら、胸にじいんときた。ああ、この人はあの頃もこんなふうに、私のことを他の誰かに自慢してくれていたんだろうなあ、と。
別れ際、もういい年だし、彼女を人生のパートナーに決めるかもしれないと彼が言った。
「でもね。やっぱり小町ちゃんの料理が一番うまかったなあ」
それは私が今夜もらった言葉の中で、もっとも心に響くものだった。

【あとがき】
ところで、驚いたのは男性の体型の変貌です。その凄まじさといったら。女性は軒並みキレイになっていたというのに、男性はかなりの人がボリュームアップ。顔を見てもすぐにはわからないほど太ってしまったのも大勢いて、ホテルのロビーで素通りしようとして「オイオイ、無視するなよ」と声を掛けられる始末……。