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2002年11月16日(土) 中国三大びっくり(後編)

中国三大びっくり。ふたつめは「道路状況のむちゃくちゃさ」だ。
先日、私は大阪の歩行者の交通マナーの悪さについて書いたが、ここはマナーうんぬんのレベルの話ではない。訪れたすべての都市で、わが目を疑う光景が展開されていたのだ。とにかくすごい。
日本では歩行者が信号無視をしても、車は忍耐強く通り過ぎるのを待ってくれるが、中国における人と車の力関係は五分五分。どちらも同じくらい強い。どんなに狭く混みあった道でも車は歩行者の脇をかすめ、すごいスピードで走り抜けていく。
しかし、歩行者のほうも車がどんなにびゅんびゅん走っていようが、それを縫うようにして平気で道路を渡っていく。彼らにとって信号や横断歩道などないも同じ。青信号に変わるのをおとなしく待っている人などゼロ、本当にゼロである。いつまでたっても渡れず歩道に立ち尽くしているのは、きまって私たちのような外国人旅行者だ。
また、自転車の数もハンパでないが、「たかが自転車でしょ」と侮ってはいけない。中国のそれは自転車であって自転車ではない。そのバイクのようなスピードで何度轢き殺されそうになったか。
それの大群がまるでバスを先導するかのように道路の真ん中を悠々と走っている様は壮観とさえ言える。
道路に人、自転車、車が入り乱れるあまりにも不思議な光景。中国に行ったら一見の価値ありだ。私など西安で市街を一望できる鐘楼にのぼり、三十分も眺めていたほどである。

そして、三つめ。この旅最大のビックリは「トイレ」である。
残念ながら、ドアや仕切りのないトイレにお目にかかることはできなかったが、それはまあいい。仮に見つけていても、トライする勇気は出なかっただろうから。サソリは食べても、それだけは無理。
私が腰を抜かしたのは他人が用を足している姿を何度も見せられたからである。
というのも、鍵をかけない人、ドアをちゃんと閉めない人がものすごく多いのだ。表示が「空き」になっているから、ドアが半分開いているから、となにも考えずにパカッとやると取り込み中だった……ということが何度あっただろうか。
おかげで、ドアを開けるときはいつも「黒ひげ危機一髪」をやっているときのような緊張感に包まれたものである。
はなからドアを閉める気のない女性にも二度出くわした。西安のケンタッキーのトイレで、三十代とおぼしき女性が順番待ちをしている友人と談笑しながら用を足していたのには愕然。
私はこれまで、羞恥心というのは人間のきわめて本能に近い部分にある感覚だと思ってきた。「人に見られたら嫌だ」「隠したい」と感じる部分は女であるなら国籍、人種を問わず共通するものである、と。
しかし、髪を茶色に染め、可愛いストラップのついた携帯電話を持ち歩き、フライドチキンを頬張る一見日本人と変わらぬ女性がトイレでは衆人環視の中でしゃがむことができるというこの摩訶不思議。
現地ガイドの方によると、ほんの十年前までトイレにドアがないのは当たり前だったというし、はしたないなんて言うつもりはまったくない。しかし、用を足す姿など一生誰の目にも触れさせないのがふつうである日本人の私にとって、その光景はかなりショックであった。
ところで、旅のあいだ、私がどこに行くにも肌身離さず携帯し、なによりも重宝したのはカメラでもガイドブックでもなく、トイレットペーパーである。
出発の日、中国マニアの友人が関空まで見送りに来てくれたのだが、「ハイ、餞別」と渡されたのがトイレットペーパー1ロール。なんの冗談かと思ったら、あちらのトイレには紙がないからこれを持って行けと言う。「こんなものを?」と思ったが、持ち歩いてみるとなかなかどうして便利なのである。トイレはもちろんのこと、食堂のテーブルが汚れていてもこれさえあれば安心。ポケットティッシュだといくらあっても間に合わないが、トイレットペーパーならケチケチしないで使えてとてもいい。
しかし、この便利さ、実に危険だ。やみつきになりそうで。
大阪の街中でバッグの中からやおらトイレットペーパーを取り出す女がいたら、それは私です。

【あとがき】
他にも驚いたことはたくさん。英語があまりにも通じなかったこと。中国で英語の通用具合は日本並みと聞いていたが、若い女の子にも「キャンユースピークイングリッシュ?」が通じないことはザラで、はっきり言って日本未満。ここまで通じなかった国ははじめてです。それともうひとつは、結婚していない男女はホテルで同室には泊まれないということ。これは海外からの旅行者も同じ。ハネムーンで中国に行くときはパスポートの名前を必ず統一しておきましょう。だけど婚前交渉は当たり前にあるそうで、旅行に行ったり同棲したりの状況は日本と同じだそうです(現地ガイドさんから根堀り葉堀り聞きだした。「変なことばかり聞きますね」と言われた)。