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2002年04月28日(日) 親なんだから。

私は討論番組があまり好きではない。
といっても、『たけしのTVタックル』はたいてい面白く見ているし、『朝まで生テレビ!』もなにが気に食わないということはない。私がどうしても心安らかに見ることができないのは、「素人」ばかりが集められての討論である。
番組出演が決まるまでなんの問題意識もなかったに違いないタレント(RIKACOとか林寛子とか)がしたり顔で正論をぶっているのを見ると、「女の代表みたいな顔しちゃって」とむっとするし、笑顔を浮かべて頷くだけのアイドルには「これも仕事でしょ、意見のひとつくらい準備してきなさいよ」と言いたくなる。
一般人ばかり集まったのも苦手だ。とくに若者が理想論を並べ立てたり他人の意見に聞く耳を持たなかったりするのには閉口する。以前、「フリーターは是か非か」を討論しているのを見たことがあるが、煮詰まると「私がいつあなたに迷惑をかけましたか」「他人にとやかく言われる筋合いはない」などと平気で言い出したので、驚いてしまった。こういう番組に出演しておいてそのセリフはないだろう。
しかしながら、昨夜NHKで放送していた『真剣10代しゃべり場』は興味深く見せてもらった。公募で選ばれた十代の少年少女十一人が持ち回りで用意したテーマについて意見を交換する、司会者、台本、結論なしの番組である。
今回のテーマは高校一年生の女の子の、
「私のママは三回離婚しています。私はママとふたり暮らしで幸せだけど、まわりからは『かわいそう』とか『躾がなってないんじゃないの』とか、偏見の目で見られます。たしかにママは親というより、女として生きていると思う。でもそれっていけないことですか。離婚っていけないことですか」
という投げかけであった。
主張は案の定、離婚反対派と肯定派にわかれた。
「好きで結婚しておいて、身勝手じゃないか。『両親揃った家庭』という子どもにとって一番の場所を取りあげる離婚は、子どもとして認められない」
「でも、うまくいかない親の元で暮らすことこそ、子どもにとって最大のストレスだ」
「夫婦ふたりならともかく、親であるなら子どものことを最優先に考えて、別れずにすむ方法を選ぶべき。結婚、離婚を軽く考えすぎている」
「だけど、どれだけ話し合っても解決できない問題はある」
飛び交うのは、こういうテーマなら出てくるだろうと予想できる意見ばかり。やっぱり十代だなという感じで新鮮さはない。
しかし、四十五分間のやりとりを見ていて、私が感じたことがひとつある。それは、不仲な親を見て育った子どもは年齢以上に大人びるということだ。
両親が不仲、もしくは離婚している家庭に暮らす五人が言う。
「親がけんかしたり虚勢はったりしている姿が子どもっぽく見えてね。僕が守らなきゃこの家庭はもたないなと思った」
「人生一回きりなんだよ?自分のために、親に親として生きることを強制するなんてできない」
「親には我慢をさせたくなかった。だから『離婚してもいいよ』って言った。だけど自分が親になったら、もし相手とうまく行かなくなっても離婚はしたくない」
私なら大丈夫、お母さんの人生だもの、したいようにすればいいよ------もっとも多感な年頃にして、この理解の深さ、ものわかりのよさ。精神的に親と子が逆転してしまっている。
現在とりたてて問題のない家庭に暮らすメンバーが「子どものために生きるのが親でしょう?」と、離婚によって被る「子の損害」に焦点を置いた主張に終始しているのとはまるで対照的であった。
前向きに生きるために離婚という選択肢を必要とする夫婦が存在する以上、それに是も非もない。それぞれの家族がそれぞれの離婚を「是」にする努力をするのみだ。
「親を許し、現実を受け入れることで、強くなれた気がする」
「私がしっかりしなきゃって考えるようになって、自立できた」
「私はぜったい失敗しない。子どもは仲のいい温かい家庭で育てる」
親の離婚という「喪失」から、彼らが得たものはたしかにあったようだ。しかし、それでもやっぱり、これは子どもにとって味わう必要のない苦痛だ。いじめと同様、しないで済むに越したことのない種類の経験である。
少女が言う。
「ママは親っていうより友達。お互いの恋愛について相談したり、朝まで話し込んだりする」
女対女の付き合い方ができるというのもすてきな関係ではある。しかし、友達親子であっても、ふたりの立場は母と子だ。たとえどんなにしっかりしているように見えても守ってやるべき子どもだ。なのに、親が十五や十六の息子、娘に心配かけて守られてどうするよ。
「親なんだから」と私は言いたい。うまくいかないものはしかたがない。あとにつづく言葉は「耐えがたきを耐えろ」ではない。
ただ、親たちの決断を「これも運命」と受け入れるしかない子どものために「しっかり頼むよ、お父さん!お母さん!」という気持ちだ。

【あとがき】
幸せの形は人それぞれ。だけど、子どもはやっぱり年相応でいられたほうがいい。大人になったら自分の行動に責任を持ちましょうと言われたけれど、人の親になったならなおさらだ。夫婦円満が子どもにとって一番の幸せだと思えば、日々の生活の中で軽々しい行動、無責任な行動はお互いに取れなくなるんじゃないでしょうか(夫婦の会話をなおざりにするとか、育児を妻にまかせっぱなしにするとか、浮気とかね)。