**** ウチのお嬢(=本名:モカ)の犬エッセイ集です ****
∨前の日記--∧次の日記
- 2004年10月27日(水)
- 犬エッセイ《ダックス・イン・ザ・パーク》―3―「営業」


==========================================

ダックス・イン・ザ・パーク
DACHS IN THE PARK


ハラタイチ  書き下ろしロングエッセイ―その3―

==========================================

別名「犬バカ日誌3」。












(1を読んでいない方へ。 注…「お嬢」=「彼の愛犬であるメスのミニチュアダックス」)


店中の視線がお嬢に集まっていた。店中が肩で息をしているように感じた。
お嬢は犬への奇襲営業を再開している。そして、お客のうちの一人がお嬢の傍へ座った途端、
お嬢の営業モードが即座に人間用に切り替わった。それも安易に飛び込まない初対面バージョンである。
お嬢は初対面の人間への営業時は必ず、陸上自衛隊顔負けの匍匐(ほふく)前進で擦り寄っていく。
床にお腹が付く位の姿勢で四肢を高速運動させるので、活きのいいゴキブリのような動きに見える。
お嬢が初対面の相手に匍匐前進する理由を、彼は「好奇心と警戒の極限での融合」と判断していた。
今、お嬢が匍匐前進していく先のこの女性が、お嬢の本日の最初のお客さまであった。


******************************************

【1人め】Yさん(女性/32歳)、ジョン(ミニチュアダックス/2歳)

「わ〜小さ〜い。この仔何ヶ月ですか?え!五ヶ月〜?!一・三キロ?!、小さいですよそれ!
カニンヘンじゃないんですよね?、私んとこなんか見てくださいよ、もう五キロ超えてるんですよ。
六キロなったらもう本格的に「ミニチュア」を疑わなくちゃいけない感じで、え〜そうなんですか〜、
あれですよ、六ヶ月経ってもこの大きさだったら、多分ずっとこのくらいの大きさですよ!
え〜いいな〜、ジョン!見てごらんよ、こ〜んな小さいよ、お前はぶくぶく大きくなって!!」

ジョンが心なしか、しゅんとしてたような気がした。この犬はクリームとブラックタンの仔で、
レッドながらも耳や尻尾の先にクリームや黒が交じっている個性的な毛色のダックスであった。
Yさんにお嬢が撫でられている隙に、ジョンはお嬢のお尻をくんくん嗅いでいた。お嬢に圧倒されっ
放しの挨拶だったが、やっとジョンから挨拶出来たところであった。無論、お嬢は気付いていない。

******************************************

【2人め】Rさん(女性/31歳)、ユウタ(ミニチュアダックス/1歳)

「ちょっと抱いてみてもいいですか〜?わ〜小さ〜い、ぬいぐるみみたい!ちょっと、
うちの子供に見せてあげたいわ。五ヶ月には見えないですよこの仔、あ〜顔立ちもいいですね」

Rさんのダックスのユウタは、完全にお嬢にビビっていた。身体は三倍ぐらいあるのだが。

******************************************

【3人め】Kさん(男性/38歳/ペットカフェ店長)、ゴロ(仮名/トイプードル/4歳)

「え〜この仔、五ヶ月なんですか〜?」とKさんが彼に話しかけている隙に、なんとお嬢は
ゴロ用の水皿を見つけるや否や、勝手に鼻を突っ込んで、ぴちゃぴちゃと舌鼓を立てていた。
「こら、てめっ!」と彼はリードを引っ張りながら、「水なら俺が持ってるから、こらっ!」
と云って止めさそうとしたが、Kさんが彼を制して、「あーいいのいいの、飲ませてやってよ」
とお嬢に水を勧めた。彼は恥ずかしさに顔が赤くなり、「す、すみません」と謝った。
しかし思いの外長い間、お嬢が図々しくも水を飲み続けていたため、彼はリードを手繰り寄せ、
「いい加減にしろ、こらっ!」とお嬢を捕まえた。(何か問題あって?)とばかりに彼をキッと睨む。
K店長は棚の整理をしながらその光景を見て笑っていた。だが、彼は気にせずにはいられなかった。
お嬢に水を獲られたゴロが、泣きそうな顔で彼の傍に近付いて来た事を。彼はゴロを撫でてやった。

******************************************

【4人め】Lさん(女性/27歳/ペットカフェ店員)、メグ(仮名/シーズー/1歳)

店長と一緒に笑っていたのが、店員のLさん。皿を拭きながら笑顔で彼に云った。
「元気いいですね〜。散歩してる仔でこんなに小さい仔は初めて見ましたよ〜、かわい〜。
そこに首輪とか売ってますけど、その仔の首のサイズはSSの18センチのものでも、
多分全然大きいですよね〜」彼は、ごく自然に首輪の営業をかけられている気がした。

彼は陳列されている一番小さい首輪を手に取って見た。確かにお嬢の首周りには全然大きい。
それを見て彼は、散歩をし始める仔犬の大きさが、世間的にどのくらいのものなのかに少し気付いた。

*******************************************



この店をお嬢は完全に制圧してしまった。店を出る時も、お嬢はまだ物足りないのか、
リードを引っ張って戻ろうとしている。皆が手を振って見送ってくれた。この時彼はふと思った。
一時的ではあるが、冴えない気分が少しばかり回復して来たような気がした。
お嬢のテンションに引っ張られて、高ぶって来た自分を感じた。まったりと過ごすという予定とは
異なる方向に進んでいる違和感と、こういう社交的なイベントもありかな、と思い始めている自分が、
彼の中で半々の割合となりつつあった。通りに出ると十月の午後の陽が常温の暖かみをもたらしていた。

*******************************************

公園へと通りを渡る横断歩道の手前で、またしてもお嬢が立ち止まった。
振り返ると、腰を屈めたお婆さんへ向かって、お嬢が匍匐前進していた。


********************************************

【5人め】Yさん(女性/66歳)
【6人め】Sさん(女性/38歳)
【7人め】Tくん(男の子/10歳)


お嬢が近付いていったのは、66歳になるYさんであった。Yさんは顔を綻ばせながら、
「お〜よしよし、いい子だね〜」と、まるで初孫を迎えたかのようにお嬢を抱きかかえた。
お嬢は完全に甘えたモードに入って、身体をYさんに預けていた。

「この仔、どのくらいなんですか?」Yさんの娘でTくんの母親らしきSさんが彼に訊いた。
彼が五ヶ月だと云うと、やはりSさんも驚いていた。どうやら家でダックスを飼っているらしい。
お婆さんは、まるでお嬢が何歳だろうと関係ないらしく「孫」に夢中になっていた。彼はその光景が、
本当の孫であるTくんがお婆さんにとってもう「目に入れても痛くない」モードから外れてしまった
からだろうか、などとかなり失礼な事が頭に過った。そのTくんはじっとお嬢の動きを見つめている。

母親がTくんに、「ちょっと抱かせてもらいなさい」と云って、お婆さんがTくんに近付けたのだが、
テンション高めのお嬢に押されたのか、Tくんは少し触っただけですぐに手を引っ込めてしまった。
「あれ?家で飼ってるのに苦手なんですか?」と彼がSさんに訊いたところ、
「あ、いやね、この子が小さい時に、うちのがTの手を噛んだ事があってね、軽くだったんですけどね、
その時の事がなかなか離れないんだと思うんですよ、嫌いじゃないみたいなんですけど、どうもね…」
と説明してくれた。Tくんは手を引っ込めた後も、お嬢をじっと見つめていた。

*********************************************


お婆さんからお嬢を受け取った後、信号で待っている間、そして公園へ向かって横断歩道を渡る間も、
彼は周囲からの視線を強烈に感じた。事実、すれ違う人々は必ず、顔を180度近くターンさせて、
少なくとも五秒以上は彼の足元に視線を向けていた。(もしかして俺はナルシストなのか?)と、
疑ってしまう程に彼は見られている事を感じた。二人は衆人環視の中、公園の門をくぐっていった。


(4につづく)



...
   

∨前の日記--∧次の日記----Dachs inthe Park INDEX(更新履歴一覧)



日記リンクサイト「日記才人」にも参加しています。投票には初回だけ登録が必要です(→登録
日記才人」の「マイ日記才人」に登録すれば、更新が一目で分かります

エンピツ投票ボタン(登録不要)

My追加
ご感想をどうぞ。



Copyright(C) 2006 HARATAICHI All rights reserved.

からしれんこんランキングに参加してね



Dachs in the Park
ハラタイチ


Mail

Dachs in the Park INDEX
(更新履歴一覧)
 
AIR〜the pulp essay〜
メイン日記です

わんこ専用!
わんこ・びーびーえす
ご感想をお気軽に

ごひいき犬ブログ↓


にほんブログ村 犬ブログへ

       
反響のあった過去の犬ネタを
厳選してピックアップしました!
大反響!伝説の「羊頭巾事件」    
■03/08/22    
『事件?!
 鳴きわめく犬』

 前に飼ってた別犬の2年前のお話
「も、萌えるっ」とメール殺到    
■05/02/02    
『お嬢の
 悩殺寝起きを悩撮!』

 適当に撮った写真を並べ替えて編集
一部ファンの方、ご推薦    
■05/03/09    
『ちょーだい!
 ちょーだいっ!』

 お嬢の高速四肢運動、最後はワンツー!
外人男に色香を放つお嬢!    
■05/05/05    
『ダックス
 イン・ザ・パーク12』

 東京・光が丘公園での散歩風景