**** ウチのお嬢(=本名:モカ)の犬エッセイ集です ****
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- 2004年10月22日(金)
- 犬エッセイ《ダックス・イン・ザ・パーク》―1―「お嬢」


「ダックス・イン・ザ・パーク」


ハラタイチ ―書き下ろしロングエッセイ/その1―





ああ、この人すごく犬が好きなんだー
って事がよく分かる。それだけです。








澄んだ空が広がっていた。例年より長い秋雨が都会の澱みを洗い流したような空だった。
「紺碧色」が夏のハイテンションな青空を指すのであれば、純粋な「空色」というのはきっと、
今日のような透明感溢れる秋晴れの空が似合うのかもしれない。ビルの窓ガラスには空が映え、
常緑樹に再び力が漲る一方で暖色を纏う人々の姿。久々に街に戻った色彩は秋に染まっていた。
こんな空が広がる日には「何々日和」などと理由を付けて、空の下へと繰り出してみたくなる。
差し詰め彼は「散歩日和」とでも名付けたのだろうか。テンションも程よく丁度良い青空が、
出不精な上に最近鬱気味の重い身体を、すんなりと戸外へ運び出してくれたようだ。
愛車を公園へと走らせつつ、フロントからサイドへ流れる空を見ながら彼は呆と耽っていた。

ナビシートからの視線に気付き、運転席の彼は我に返った。
愛犬のミニチュアダックスフンドが肘掛けに前足を載せながら、青い眼をじっと向けていた。
尻尾を振りながら、どこか責めるような視線を、彼の顔面あたりを目掛けて突き刺している。
犬よ、そんなにピンと張り詰めるな。ゆるゆるで行こうよ。こんな穏やかな空の日なんだから。
彼は一瞬思ったが、すぐに訂正した。犬にとってはそれも止むを得ないと思ったのだ。
彼にとっては、常温テンションの単なる公園散策なのかもしれないが、
この室内犬にとっては、今日が初めて経験する青空の下の散歩であった。


*****************************************


彼の愛犬はメスで、もうすぐ生後五ヶ月になる。
チョコタン(チョコレート&タン)の毛色に加えて、青い眼をしたバタ臭い容貌である。
大きさはキューピーマヨネーズの大ボトル程度。彼は別に二歳のブラックタンのオスも
飼っているが、同じ頃のオスと比べると、この仔はかなり小さいのではないかと思い始めていた。
どのダックスも最初の一、二ヶ月は掌サイズ程度で、壊れそうなぐらい小さな微生物である。
それが瞬く間に成長して、一歳にもなれば当初の三倍ぐらいの大きさになってしまう。
この五ヶ月のキューピーが普通と比べて小さいのかどうか、彼にはその時分からなかった。
犬を毎日観察していると案外、微妙に大きくなる体型の変化を意識出来ないらしく、
確かに小さいものの、五ヶ月でもまだまだこんなもんだろうと彼は思っていた。

彼が一週間前にワクチン注射のために動物病院に行った時であった。
キューピーマヨネーズを診察台の上に載せて、体重を計測すると約一.三キロであった。
台の上で匍匐前進しているキューピーを撫でながら、獣医さんが彼にしみじみと云った。
『しかし、大きくならないですね〜四ヶ月は経ってますよね?多分この仔は小さい仔ですよ』

彼は思い出していた。彼のもう一匹のブラックタンがチョコタンの仔と同じぐらいの時、
散歩の道すがら行き交う人に『ちいさぁ〜い』などと、よく云われたものだった。
よくひょいと片手で持ち上げて『高い、高〜い』をしたような気がする。大変小さかったのだ。
だが、その小ぶりなブラックタンも、今のチョコタンと同じ頃には確か二キロは超えていたはず。
その時彼はようやく公的な認識を持てた。このチョコタンはとても小さい犬なのかもしれないと。

この時点で、彼には全く想像出来なかった。
この日の散歩で、この犬のこの小ささが、世間的にどれだけのものかを思い知らされる事を。
さらにはその事が、彼の「仔犬を適当に遊ばせながら公園で呆とする」という静かな目的を、
根本から変えてしまうなどと、思いもよらなかった。

*****************************************

大通りへと入る交差点で信号を待っていた。外を見ようと犬は二本足立ちで尻尾を振っている。
三度に渡るワクチン注射が先週で終わり、晴れて今日公園デビューする彼の愛犬であるが、
舞台袖で出番を待つ新人役者のような緊張感なんてものは、もうお察しの通り微塵もなかった。
彼の眼には、このメス犬が、二人掛かりでメイクをさせている大物女優に見えた。
番組のアシスタントディレクターに『あたしの出番まだなの?ちょっと早くしてくれない?』
などと栗色の髪をファァーと掻き揚げながら、針を刺している光景に映った。
彼はADさながら『すみません、あとちょっとで着きますんで、もう少しのご辛抱を』と云うが、
『とにかく早くしてよね!』とばかりに大女優は、後ろ足を小刻みに動かして顔を掻いている。
パッチリとした青い眼の中の小さなハイライトには、ウインドウから覗く空色が映りこんでいた。

ミニチュアダックスで五ヶ月といえば、人間の幼稚園から小学校ぐらいに当たるだろう。
しかしこのメス犬はかなりのじゃじゃ馬(犬?)であった。行動はとにかく瞬発的で機敏。
帰宅してケージを開けるとミサイルのように飛び出し、勢いあまって部屋の隅まで駆けていく。
こいつが競走馬なら、間違いなく逃げ馬として調教されるだろうと、彼は確信していた。
性格的にも衝動的で、いちいち文句や愚痴が多く、淋しがり屋かと思えば気まぐれで、
さらには甘えとわがままを巧みに操る、メリハリきつい性格を持った魔性の女であった。
というわけでこれ以後、彼に断り無くこのじゃじゃ犬を「お嬢」と呼ぶ事にするとして、
彼とお嬢を乗せたクルマは、公園に隣接する並木通りへ入っていった。

(2へつづく)


...
   

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