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一人で入れる、小さめな、食堂とレストランの中間みたいなお店。 一応、イタリアン。
病院帰りに、一休みする。この店は何年振りだろう? 以前来た時、ここには大根と水菜とホタテのサラダがあった。 サラダは好きだけど、玉ねぎはお腹が痛くなっちゃう私は、 それが食べたくて、ここへ来たのだった。 だがそのメニューは無くなっていた。
「あの、このサラダとこのサラダとこのサラダの中で玉ねぎが 入っていないサラダはありますか?」 「申し訳ありません。全部入っているんです」 (泣)
余りの悲しさに「スパゲッティ大盛りにして下さいっ」と言うのを忘れた。 盛りが少ないんだよね。そう言う部分って変わらないんだよな〜。
隣りに家族連れが座った。ベビーカートに乗った子供さんの顔は見えない。 でもカートに乗ってるから小さい子だ。ずっと泣いている。 30代の初めかと思われるお母さんは、化粧っ気のない地味な人だ。 「うるせえなあ。氷でも食わせとけよ」 お父さんの発言に、耳を疑う。思わずお父さんをみてしまう。 ホリエモンから、へらへら感を抜いたような、かなりな人物が座っていた。 「どうせ、あんた他のもの食べないんだから、ほらっ氷食いな!」 と、これはお母さん。地味な雰囲気からはちょっと想像し辛いお言葉遣いだ。
子供は静かになった。口に氷を突っ込まれたかららしい。 大きな氷でなければいいのだがと、少し心配になった。
夫婦の会話が聞こえて来る。隣席であるせいもあるのだが、声が大きい。 そして、まあ余計なお世話なのだが、耳を疑うほど口汚い。 言葉は、私も結構がらっぱちではあるが、次元が違う感じ。 子供が氷を食べ終わったらしく、声が聞こえた。 「ああ、あああ」 片言もまだっぽい。 「うるせえよ」 と父。
スパゲティは美味しいが、やはり盛りが強烈に少なかった。 漠然とした怒りで胸が一杯になっていたが、お腹は空いている。 チーズオムレツなら食べられるかな〜と思った。
「済みませ〜ん。これ下さい」 「はい」
隣席に大きなピザが運ばれて来る。 「ああ、あああ」 と子供の声。 「どうせ食わないけど、少しわけてやりなって」 と母。 「うるせえよ、何でオレがやんなきゃいけねえんだよっ」 と父。 「ほら、お父さんがくれたんだよ!ちゃんと食いなっ」 と母。
運ばれて来た私のオムレツはオムレツではなくオムライスだった。 どうする私。もう、スパゲッティは食べているのに。 いや、このくらいなら何とか食べられるんじゃあ・・・
隣りの、特に父親の悪口は続き、非常に不愉快で胸は重くなる。 が、オムライス無事完食!アンド、デザ〜ト完食〜ッ!
母親も「食う」「しろ」「この馬鹿」と子供にかける言葉とは思えない。 昔の知り合いで、とてもとても優しい女性がいて、中途半端にその人に 顔が似ているところが、個人的に何ともやりきれない。
結局、大食い選手権みたいなテーブルを残し、私は席を立った。 その時初めて、隣りの席の子供の顔が見えた。 2〜3歳くらいの男の子だ。小さなピザを手に持って、こっちを向いて にこにこしている。だから私もニコニコしたのだがっ
父親がいきなりこっちを向いた。わあ、怖い。目もあわせられない。 しかもずっと見ている風。子供に因縁でも付けていると思っているのか。 ものすごく怖いので、会計に急ぐ。
良く、虐待を受けている子は表情がないと言うから、あの子は身体的な 虐待は受けていないのかも知れないなと思った。 だが、言葉の虐待を受けている。全ては正確に思い出せないが 明らかに劣った者を軽蔑する言葉ばかりで、厳しい中にも愛情が 感じられる言葉はなかった。外だと余計に、普通は気を使うんだけど。 父親は 時折だらんと椅子に寝転ぶ真似をして、親の躾の悪さ丸出しだ。
食堂は喧騒に包まれ、みな各々の話をしているようで、絶対に関心は この親子に向いていたはずである。それほど目立っていた。
子供の方を向いたら、またニコニコするのは判っているのだが それを知ってて無視して、会計に向かった自分が何だかひどく情けなかった。
子供が呼びかけた時「うるせえよっ」と怒鳴った父親。 他人事さ、ああ他人事だとも。だが、許せん。 でもやっぱり、あれは親子で、親子として完成された形なのだ。彼らなりに。 後味が悪い。その割に良く食べた私だ。
スパゲッティのあと、オムライスまで食べられるとは 自分で自分に、少しビックリした。
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