もうちゃ箱主人の日記
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2008年08月05日(火) 「夏至から冬至まで」

田村隆一全詩集から
拾い出した西脇順三郎について触れた詩のいくつかを
これから時々ご紹介しませう…

最初の詩は
詩集『ワインレッドの夏至』の中で
前回(7/8)ご紹介した「ワインレッドの夏至」の直前に
収められている。
こちらの方が、西脇の詩「夏至」の引用部分が多い。
 私は、こちらの方が好きだが…

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夏至から冬至まで    田村隆一


相模の海を背にして
鎌倉の山並をゆっくりと眺めてみよう
滑川の河口の砂浜に立つと
左手には稲村ヶ崎の岩状の岬
ドライブウエイをへだてて霊山ヶ崎が源氏山につづき
さらに北上して葛ヶ原岡にいたる
北には勝上ヶ岳
東にのびて鷲峰山 大平山 天台山
東南には衣張山 浅間山 名越山 弁ヶ谷山が海の方にのびてきて
飯島ヶ崎


「また脊髄の中を
夏至が昇ってきた
ヨハネのマラルメのゲジゲジの
せぼねを食うためにヲナガが
笑いながらかけめぐっている
磯にうちよせる波が小さく見える
カマキューラの山々なども青白く」
とJ・Nは
鎌倉をカマキューラと発音したが
その秘密がやっと分った


J・Nが
死者の住む世界に旅立って
本当に世界が夏至になったとき
小町通りの喫茶店で
大正十二年から鎌倉の畦道を歩いているF先生に会って
カマキューラの山々なども青白く」
J・Nの思い出など語りあいながらお茶を飲んだことがあった
突然F先生の眼に光りが走り
美しい微笑をたたえながら
「そうだ、ぼくがまだ学生のころだったから
昭和初年のことだったでしょうね
西脇さんがイギリス人の女流画家マジョリイさんと連れだって
材木座の海岸へよくお見えになりましたよ
そのころは、西洋人の女性の水着姿は珍しかったから
ぼくは今でもよくおぼえていますよ
とてもグラマーで美しい婦人でしたけどね」


鎌倉でいちばん高い山
標高一四〇・八メートルの天台山にのぼって

明るくておだやかな冬がゆっくりとしのびよってくる
カマキューラの山波と町を眺める
七口
七つの切り通しにかこまれた中世の町の

光と影の小道
その表皮の
けばけばしい変化にもかかわらず
生きとし生けるものの哀歓と夢が
四季の移り変り
星座の運行とともに
生れかわり
語りつがれ
深い沈黙のなかで呼吸しているくせに


バードウォッチングの双眼鏡でいくら探してみても
J・Nの背中は見えない

  (詩集「ワインレッドの夏至」より)


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