片づけています。 片づけています。 ──嘘です。余り片づけていません。進んでいません。むしろ後退しています。 前述の押入れから出し入れ出来ないブックワゴンは、押入れに入れることは出切るようになりました。アロンアルファーは偉大です。押入れから出す(つまり、引っ張る)ことは出来ない愉快な仕様になってしまいました。おかげで本の整理が中断されたままなのです。
が、荷物は本だけではありません。 こまごました物がこまごまと山になっているのです。 これは、いかん。 とりあえず場所を決めてまとめるべきだ。 はりきった私は量販店へ可愛い段ボールを買いにいきました。同じ段ボールでも可愛ければ、目障り度は少ないかも知れないのです。しかもスタッキングできればなおよし。問題の解決ではなく先送りでもこの際OK。 開き直った私は、「キッズ用」の可愛い組み立て式段ボールを購入しました。サイドをボタンで留めて、カラーボックスに丁度入る大きさに組み立てる仕様です。 よーし、ここにフェルトセットを入れちゃうぞー。 テンションはどんどんと上がっていきます。 まずは、箱を組み立てて…… ………て。 ………てぇぇぇっ!? 箱をとりだし、広げて組み立てようとした私はあり得ない物をそこに発見しました。 撥水加工の、可愛い段ボールの壁面についていたそれは、
血痕
まて。 待ってくれ。 待ってください、お願いします。 いくら何でも、それは、ない。 冷静に考えて、あり得ない。 思わず立ち上がり、深呼吸をし、もう一度手元に目をやるとやはりそこには、血痕。擦れた感じの、鮮やかでないそれは手のひらサイズより一回り小さく、特有の鉄色です。 動揺の余り、再度立ち上がり自分の手足を確認です。 怪我も出血もしていません。 いや、血は乾いているので、自分のものという可能性は低いのですが、それでも確認せずにはいられませんでした。 深呼吸。深呼吸。 今までの人生に想定していない事態に大混乱です。 汚れがついている段ボールは、汚れをぬぐえばいいのよ! そうよそうよ。そもそも、血じゃないかも知れないじゃないかじゃないかのじゃない。混乱しつつ、段ボールに消毒エタノールをぶっかけ、ウェットティッシュでぬぐうと……… わぁ。本当に、これ、血だ。だって、公衆衛生の実験で血のもろもろを実験した時と同じーーっ。 だめ。だめ。これは駄目。本気で駄目。 使えないわーーーっ。 混乱しつつKさんに電話をかけると冷静に 「返品したらいいやん」 君が店員なら「商品買ったら血がついてました☆」なんて理由の返品を違和感なく受け取るのか。無理だろ。聞くだろ。詰問するだろ。電波入った人か、クレーム大王への扱いをするだろう。てか、そもそも次に行くまでこんなのとっておけるか。恐ろしい。 「じゃ、せめて写真を撮っておかないと。証拠は要るよ?」 …………他人の血なんて、写したくありません。まったく、誰のか判らないものですよ。もし、万一、他に何か写るはずの無い物が写ったら心底嫌ではないですか。ルミノール液をぶっかけたら、夜燦然と輝くルミノール反応大全の箱かも知れないじゃないですか。ついている血痕以外にもぬぐってしまった血痕がある可能性もある訳で……。 そこで、ようやく 「綺麗にして、自分でこの箱を使わなくてはならない」 という根拠のない呪縛から解き放たれました。 そうよねぇぇぇ。私、この箱捨てても良いわよね? ね? ね、Kさん。 「いいけど、捨てて家に帰ったのに、先に部屋に戻ってきてたらすごく嫌だよなぁ」 お前は、黙れ。 ぐるぐる巻きに紐で厳重に縛られた段ボールちゃんは、翌朝、速効で廃品回収に放り出されました。 勿論、帰ってくることも、ありませんでした。 私のお散歩サンダルとお仕事ナースシューズが突然、ぶちぶちと壊れた以外は平穏です。
流石に、そのままでは納得がいかないですし、よりによってキッズ用の組立ボックスに血を付けておくと言うトラウマ神事が他にあっても駄目だろう、ということで量販店に連絡をとりました。 「作業の人が怪我をしてそのまま出荷したんでしょうね……。その。あの。むにょむにょな思いをさせて本当に申し訳ありません」 そして、物も無いのにきっかりと返金していただけました。さすがに同じ箱に交換する勇気は持てません。 けれど、むにょむにょって何。 メールでも「そのような思いをさせて」っていただきましたが、そのような、って何かしら。浮かれて買った箱に血がついていたという気持ちに似た思いって言うのが今一つ想像つかないんですが。ものすごくテンションが下がることだけは確実です。 「──貴重なご意見、有難うございました」 深々と頭を下げて、定形文です。 その定形文、なんかずれてるというか……私も貴重な体験………ありがたくない……。 全国で一体何人、こんな目に遭遇しているのでしょうか。宝くじで10万円当てるほうが遥に容易い気がします。 お仕事場でこの話をしたところ、しみじみと 「それ、いつもの土井さんを見てるし、主語が一人称だから信じますけど、もし『私の知人が』とか『友だちの友だちが』だったら絶対信じません。都市伝説だと笑ってやります」 と宣言されました。 ……そうよね、私も、そう思います。 ベッドの下の鎌男みたいなもんです。 なんでそんなくじを引くのか自分でも嫌です。 日常はあくまで平穏なのが好きです。
────そして、箱を買えなくなった私の部屋は未だちっとも片づいていないのです。
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