ことばとこたまてばこ
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今年退社のおれという人 怠惰な生活を過ごしてる その部屋のあちこちにて 鈍くぎらりと光るものは 抜け落ちているおれの歯 散らばる歯を拾う母の腕 肩より上へあげることは もう二度とできなくなる 病院で受ける医者の宣告 それが先週の水曜日の昼 なんだかある一種の儀式 すこぶる不穏な気配をも もちあわせながら二人で 母とおれは旅行をしたよ 熱海秘宝館愛と神秘の館 目指して新幹線で行った 熱海の貴婦人と浦島太郎 一寸法師にモンローらが 狂おしい性にふけってる そんな館そんな館の中で 俺幻想の部屋でまどろみ 横の部屋で母は覗いてた 腰をくねらせる性的踊り 丸い覗き穴からこそりと おれという人が息してる おれという人が存在する それはこの母という人が 父という人とセックスを そして孕みつ出産したと おれという人を産んだと ただその歴然たる事実に おれの歯は抜け落ちゆく ぼたぼたに抜け落ちてく 歯無しのおれはまるでね なんにも知ってやしない 赤子のようだったんだね いやだばかだあほだよね 母という人の庇護の下に 甘んじてるおれという人 感謝の念はけして忘れず 離れてゆかねばならぬよ 感謝の意はけして忘れず 離れてゆかねばならぬな 差し歯をぷすぷす刺して
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