Blue tears...小雪

 

 

ダイニングで。 - 2006年02月16日(木)

一気に春らしい陽気に背を押され 実家へ行った。

ピンクのチューリップにカーネーション。そして水仙に菜の花を。
14日だったから チョコも兄の位牌前へお供えし
そのすぐ横にある小さな兄の写真をしばらく眺めた。

そして声に出さずに 声をかけた。

久しぶり。来たよ。今日は暖かいね。暑いぐらいだったよ。車。
ねえ そっちの居心地どうですか?
ねえ メルとアリスも一緒なのよね?

メルとアリスは家族だった愛猫達の名前。
十数年という時間を家族として一緒に過ごして来た。
お散歩に出掛けても必ず甘え声を立て 夕方のご飯時にはちゃんと戻った。

なのに。

アリスは兄の逝く2ヶ月前にいつものようにお散歩に出たまま帰って来なかった。
メルは兄の四十九日を過ぎた週に やはりいつの間にか実家から姿を消し
やはり戻ることが 無かった。
メルもアリスも もう年寄り猫でお散歩だってそんなに遠くへは行かず
行っても外の空気を吸って気持ちよくなって満足し すぐに戻る子達だった。
それ以外は いつもこたつの中や日当たりいい暖かい場所に居て
綺麗なブルーの瞳を細めて コロンと丸くなってたのに。

居なくなった事は 居なくなった2週間後に妹からのメールで知らされ
ケータイを握ったまま アタシは呆然と立ち尽くした。

なぜ?
なぜ?
こみ上げて来る慟哭を抑えて すぐに実家に電話した。


「そうなのよ。
突然消えてね。
朝は姿を見て普通にエサも食べてたのよ。
庭やご近所も見て聞いて 色々探したのだけれど ね。
もしかして事故にあってしまったのかとも思って
何度も清掃局にも問い合わせしたのよ。
調べたら猫の習性で そういうことってあるらしいわね。
きっと二匹ともお兄ちゃんの傍に行ったのね。。。」

母が声を詰まらせながら教えてくれた事実。
あの子達が 兄の元へと行ったと想うその母の気持ち。
母の言い様の無い寂しさと悲しみに包まれてる様子が受話器から伝わり
度重なった悲しみに ただただ寂しさで一杯になり
アタシはとめどなく 涙が溢れた。

いつもいつも家族と過ごし一緒だった。
家族の風景にはいつもあの子達がいた。
人間の会話になど知らん振りしてるそぶり。 
でもちゃんといつも会話に参加していた。 

可愛くて。マイペースで。優しくて。お利口で。天真爛漫で。
アタシが遊びに行く度 ミャ〜ミャ〜足元におでこをすり寄せて甘えて歓迎してくれた。
いつも。いつも。

新鮮なお水が大好きで 台所に立つと水道の蛇口にスタンバイして来るアリス。
お水を頂戴 頂戴と甘えて鳴く声や姿は たまらなく愛おしかった。
蛇口から流れる細い水に顔を斜めにし上手に飲んだ。
眠れないときは いつもお布団にもぐりこんで甘えて来てくれたメル。
以心伝心してるみたいに 可愛くて優しかった。
その存在が暖かったあのこ達。

ねえ 今はお兄ちゃんの膝の上で丸くなっているのよね?
お兄ちゃんが寂しくないようにって 行ったのよね。

同じ川を渡り 迷わずお兄ちゃんの元へ行ったのよね。

だけど みんな寂しがってるよ。

最後のお別れも言えないままで 寂しいの。

もしかして。もしかして と。
ある日 またいつものように甘え声でひょっこり戻って来るかもしれなと想ってるんだ。
みんな。
お兄ちゃんがひょっこり戻って来るんじゃないかと想っているように。

そう。時折ね。ああ そうなんだ。 と目の前の現実に心折れるけど
まだ本当は 全然実感が無いんだ。

お兄ちゃんが逝ったことも。
メルとアリスが逝ったことも。

信じられない アタシがいるの。 家族がいるの。


ねえ お父さんとお母さん達40周年の結婚記念日を迎えたね。凄いよね。
ねえ あの人形は K(妹)と銀座まで行って選んだの。色々迷ったけど良かったよね?

兄が好きだったラベンダーの香りの御香の煙に包まれながら
そんな事を 兄と話した。

母は久しぶりにやって来たアタシを歓迎してくれて 色々と話す。
私には聞かせるような特に良い変化も話題も無いから
母の話に へぇー。とか。うんうん。と頷くばかりだったけれど。
そんなたわいない会話の中に やはり出て来る話題は兄。

もう一周忌が近いわね。
自宅とか あっちのお寺とか どこで行ったらいいかしら。。。
呟くように語り掛けて来る母の声は やはりどこか寂しい。
当たり前だと思う。
まだ一年にもならないのに それでもむしろ元気でいてくれてる両親に
アタシは逆に励まされてる。


そうそう。 安くていいのがあったのよ。
 
見るとダイニングのカウンターには赤く真新しいコーヒーメーーカー。

貴女が着たら飲ませようと思って さっき急いで2種類の豆買って来たの。
簡単で早いから見ててごらん。
美味しいかどうか ママには分からないけど飲み比べてみてよ。

母は嬉しそうに豆を入れ 穏やかな様子を見せてくれる。

いつも兄がいたはず。
いつも窓辺には猫達もいたはずのダイニングで 母と二人きり。

挽きたてのコーヒーの ほろ苦い香りに包まれるダイニング。

アタシは母の淹れてくれた美味しいコーヒーと

なんだか胸が一杯で言葉にならない想いを一緒に飲んだ。

そして

美味しいね。うん。美味しいね。

母と向き合って微笑んだ。


春の訪れを知らせる そんな 暖かい日差しの午後でした。









小雪。











...




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