日常のかけら
目次backnextclose


◇鏡開き◇

今日は寺院の中がざわざわして、たくさんの人の気配がする。
すっげえ気になって、表へ向かうと本堂の前庭が凄いことになってた。
白いエプロンをつけた女の人や坊主達がでっかい包丁で大きな餅を切ってる。
その切った餅を違う人間が小さく切って、それをまた違う人間が小さく切ってた。
何をしてるのか全然わからなくて、回廊の隅からその様子をずっと見てた。
丸い大きな餅が角材みたいな棒になって、それがまた細い棒になって、薄くなって、最後には笙玄が焼いてくれる餅の大きさになった。
山のように積まれていく餅にただただ、びっくりするばかりだった。

夜、仕事が終わって戻ってきた三蔵に言ったら、

「ああ…鏡開きか」

って、嫌そうに言った。

「かがみ…びらき?何、それ?」

オウム返しに言って、訊いたら、

「正月に飾っていた鏡餅を供えから下げて食うことだよ」

と、教えてくれた。

「あれ…あんなにたくさん食べるのか?誰が?三蔵が?坊主達が?俺が?」
「あほう、あれは檀家信者に振る舞うんだよ」

俺の言葉に三蔵がぺちんと頭を叩いた。

「俺も食べに行ってもいいのか?」
「駄目だ。寺の行事だからお前はここで留守番」
「そんなぁ…」

勢い込んで訊いたのに駄目だしされて、俺はむくれた。

「ま、笙玄がぜんざいか汁粉か…雑煮か、何か作るだろうからそれでがまんしとけ」
「…うん、わかった」

ぽんぽんと頭を叩かれて、宥められたのに、渋々俺は頷いた。

(悟空)

2008年01月10日(木)