A君はネクタイを取り替えるという行為が気がひけてまっすぐ店員さんの顔がみられませんでした。 うつむきながらごそごそとネクタイを箱ごと取り出して「すみません、このネクタイもらったのですが使わないので別のネクタイと取り替えていただけるでしょうか?」と勇気をふり絞ってあらかじめ決めていた言葉を口にしました。 「お店はどこのお店で買われましたか?」と言う店員さんの声はA君にはとても迷惑そうに聞こえました。 その時の店員さんの心模様が手にとるようにわかるような気がしてA君は「来なきゃよかったなぁ。」と後悔しました。
ネクタイの箱の中にはそのお店で購入したというカードが入っていました。 それを見て気をとりなおしたように見える店員さんが「どれとお取替えしましょうか?」と聞いてくれました。 「これと。もしお金が足りないようなら足します。」 「ここにあるのはほとんどどれも同じ値段ですから。このグリーンはお客様には地味なように思います。」 「これやこれはいかがですか?」と並んでいるネクタイをすすめられました。 「僕は黒かグレーが好きなのですが。」
「それではこれかこれかこれあたりはいかがですか?」 店員さんはケースの下の引き出しから新しいネクタイを3本だしてくれました。 1本はこのお店のブランドのマークがこれでもかと並んでいるネクタイでした。 いろんな考え方があるでしょうがA君はそういうのは嫌いです。 もう1本はなかなか素敵な柄でした。 そしてもう1本はもしA君にお金に余裕があるなら是非ほしいと思うような柄でした。 瞬時にA君の好みを見分ける店員さんはさすがプロです。
こういう高級ブランド店でネクタイを選ぶ時は陳列してあるネクタイの中から選ぶべきではないと思いました。 そこになくても下の引き出しのほうに好みのネクタイがしまわれているようです。
気に入ったものがあると決断の早いA君です。 「これにしよう。」と決めて店員さんに伝えようとした時このお店のかばんを持った50ぐらいのおじさんのお客さんがA君が気に入ったネクタイをみて「こういう柄もいいねぇ。」と・・・
|