待合室には人がたくさんいてA君の順番はまだまだです。 分厚い医学書を眺めるのに疲れたA君はぼんやりと窓の外に目をやりました。 外の春のあたたかな陽射しは小さな不安といらだちを抱えたA君の心までは届きませんでした。
小さくため息をついてもう一度窓の外に目を移すと痩せた小さなおじいさんと若い男の介護士さんが散歩していました。 おじいさんはやや足元があぶないような感じで介護士さんは緊張した面持ちです。 それでも時折介護士さんは何かおじいさんに優しく話しかけていました。
突然介護士さんがまぶしそうに目を細めました。 右手はおじいさんの背中のすぐ後ろでいつでも支えられるようふさがっていましたのであいている左手でおじいさんの顔にひさしを作りました。 おじいさんを大切に思う優しい気持ちがガラス越しにA君にも伝わってくるようでした。
庭には他に誰もいなかったしまさかA君がながめているなんて気がついていなかったと思います。 仕事だから当たり前と言えば当たり前なのでしょう。 それでも陰日向なく働いている介護士さんというよりも介護士さんの人間的な優しさは不思議なことにA君の沈んだ気分をも明るくしてくれたのでした。
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