書泉シランデの日記

書泉シランデ【MAIL

My追加

プランタン=モレトゥス博物館展図録
2005年06月19日(日)

展覧会の図録というものは、なんとなく買うことが多いが、実のところ、それほど何度も繰り返してみるわけではなく、参考にして何かをするというわけでもない。ただ、まあ、何かのときに便利だろう、とか、この分野ちょっと勉強したいから解説真面目に読もう、と思って買うのである。

で、昨日行った印刷博物館の図録である。大変読み応えがある。もちろん、16世紀西洋の印刷・出版文化など、こちらは何もしらないから、どこを読んでも「ためになる」のであるが、序論の部分が総論としてとてもわかりやすく、以降、それを具体的事例で追認するような形で、出品物の解説を読んでいくことができる。

一言で言えば、文化の共有手段として本という形がある。そして、コンテンツの提供者として執筆者、出版者(この場合はプランタン一族)がいて、実際のハード製造にあたる印刷者や活字鋳造、挿絵彫刻(ブリューゲルとかルーベンスとかも)、製本などに携わる人がいて(今回、紙の問題には深入りしていなかったのが残念)、さらに流通を助ける/妨げる諸般の情勢があり、そうしたさまざまな幸運に恵まれて、初めて読者は本を手にすることができるのである。

文化を取り上げるときには、コンテンツだけを問題にしがちで、確かに、コンテンツこそ時を越えて生き延びるものかもしれないが、技術の部分、あるいは政治的な部分にもっと関心を持つべきだと考えさせられた。和書の出版については、かなり研究がなされているけれども、いかんせん、島国、しかも江戸時代といえば中央集権が進んでいるから、ヨーロッパとは情況が違いすぎる。それとの対比を考えてみるのも面白そうだ。和本の研究をしている人に怒られるかもしれないが、ヨーロッパにおける知識の伝播のダイナミズムはすごいねの一言。

西洋の印刷・出版関係の文献で素人に読みやすいものが少ないことは、図録の文献一覧を見ても明らか。だからこそ、本図録の持つ啓蒙的な意味は大きい。



BACK   NEXT
目次ページ