給料は安くない。十分に物を買うことができる。 会社では人の信頼もある。 これからもそうやって生きていけるのだろうけど心はからっぽだ。
プルトップを集める。ゴミを拾う。家に飾る。 自分がゴミでないと思うために。 そんな女がレイプされ、たまたま訪ねてきた父を殺される。 暑い夏の午後。 病院から退院したその女の警護に当たるのは写真誌に容疑者を売ってしまうような最低の刑事。 子供を亡くして妻と離婚し、その妻が夜の姫君をしているのを知り、やめさせたいと思いながらも今の自分には無力だ。 刑事の大学からの友人はかつての恋敵。いらつきながらも離れられない腐れ縁。人を雑誌に売りながら、養育費をつくる矛盾。 最低の刑事を罵倒するエリートの本庁の刑事すらも時代と組織のかねあいの中で深く沈み、凶暴に女を追い詰める。 組織を利用して成り上がるつもりの若い刑事もひょうひょうと説得しながら勝ち感はみあたらない。 誰も彼もよどむ現実の中に足を取られ、悲鳴をあげそうな一発触発。 「燃せばゴミじゃなくなるから」 人をみずにそう言う女は大人の顔をしながら子供の声で話す。人も亀も、燃せば浄化される存在になる。 しかし燃すにも値するものにすらなれる気配はどこにもない。 人をまっすぐにみて話したことはいつだったかも忘れた。 欠落したもの同士密室で時間を過ごし、押し入れと部屋で言葉をかわし、 孤独と浮遊する心が少しずつ近づく。 愛でなく、哀。 自分が女を救うことによって、自分が救われると思う刑事。 自分に生きろ、逃げろといってくれた刑事の存在で死に、そして浄化することを許されたと思う女?
夏の日暮れのうざったい古風な部屋の中で、灯油を撒きながら男は潮が引いても残ってゆくような取りこぼした出来事をも天に昇る火になって消えてゆくことを願う。
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本当につらかった思い出をたいしたことではないと、目をそむけて忘れてしまおうとする。 または自分自身に蓋をして、若い刑事のように「長いものには巻かれろ」ってやっている。 誰にでも生きてゆくには意思や悲しみを犠牲にするのはある意味仕方のないことだとは思うけど、壊れてゆく自分を自分で救えないほどの痛みに、彼らのいた夏の日のようにあたし自身の体から水が抜け、それでいて肌をつたう汗が渇かない、そんな気持ちのまま劇場をぬける。 でもあたしは彼らには救いがあると思った。 なぜなら、彼らのささくれだった感情にははっきりした不満と不安と原因があるからだ。 それを解決すればいい。 生きるという手段でなく、誰が見ても非社会的な方法であっても、それは彼らには解決できたのはないかと思うから。 燃すという方法だったけど。
10年前の携帯、20年前の恋敵の話、30年前の漫画を並べた部屋で起こる最終的な狂気の話にはこの閉ざされた結末でしか幸福はなく、またそれでよい。 そうなっとくせざるを得ない。 しかし、この芝居にでてきた一番新しい携帯の形すら懐かしいと思える今の時代、最後の新しいこの話ももう幻影、またはおとぎ話になりはてていると思った。 『原因』のないLOSTが始まっている。 いつかそれが時代を支配する日がくるのかもしれない。 その時、実体のないやたらな虚無と哀しみをどうやって打ち消すことはできるのだろうか。
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みたものとはべつに曲解と祈りに満ちた感想を書いてみたけど。 やっぱり重たかった話ですね。(苦笑) 自分だっておおかれ少なかれ、そんな矛盾の中で生きているとは思うから。
済ました顔して女を襲うかっくいい楢原さんと、笑いながら目が笑ってない複雑なひとな山崎さんをみれたので、 ま、それが面白かったですけど。
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