Jacarandaの日記
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Jupiter は、ラブラドール・リトリバー種が少し混じった雑種の雌の犬だ。
マラウイ、Blantyreの私のうちに来たときはもうたぶん5,6才になっていただろうか。 私が彼女と初めて会ったのは,一緒に赴任した同期の日本人の家でだった。 彼女は、人懐こいとても利口で性格のいい犬だった。 ガードドックとしても優秀で、本当に現地の人は彼女を怖がっていて、 彼女が番をしてくれていると思うと夜も安心していられた。
しかし、 彼女には、ずっとわずらっていた皮膚病の持病があった。 Ringworm 、皮膚真菌症という厄介な代物だった。 とても痒いもので.、水虫と同じ種類の菌なので体全体に広がっていて、 本当に痒そうだった。 もう何年も何年も、そのまま治療をされていなかったので、お尻のところが丸裸になって、 皮膚が硬く黒ずんでしまっていた。 日本人でも犬にきちんと薬を与える人はいなくて、ほったらかしだったのだ。
それから、数ヶ月たったころ、久しぶりにその友達のところに訪ねてみると、 彼女の姿が見えない。
「 どうしたの? 」 と聞くと、
持病の皮膚病が、雨季が始まったせいでどんどん広がっていっていた。 その痒さは相当なもので、彼女はもうその痒さに耐えられず、ストレスで食欲もなくなり、げっそりやせていた。
私が久し振りに見た彼女は、物置の暗いなかで異臭を放ち、 ハエに付きまとわれながらうずくまっていた。 かわいそうに。。。。。 それでも彼女は嬉しそうに私の顔を見ると尻尾を振ってくれた。 この家の飼い主達はもうそんな彼女に手をかけるでもなく、放置して、 このまま死んでも仕方がないと思っているようだった。
私は同居していた先輩のほうに声をかけてみた。 彼は一人暮らしを始めるため、BlantyreのFlat に移る予定だった。 そうすると彼は意外なことを言ってきた。
「 Jacarandaさん、あなたは獣医なんだから、彼女をどうか助けてください。 彼女をあなたのうちへ連れて行くって言うのはどうですか? 」
それから、話は早かった。 彼が事務所からトラックを調達してきて、隣町の我が家まで運んできてしまった。 うちに着いた彼女をバスタブの中に (私が使っている!) の中にいれ、 ごしごしとシャンプーで体を洗ってやった。 何せ、すごい臭いだったのだ。 さっぱりしたところで、持ち合わせていた人間用の水虫の薬を、彼とふたりしてかき集めて、Jupiter のそのはげたお尻やら首筋やら、ものの見事に毛の抜け落ちてしまった部分に軟膏を塗りたくってあげた。
彼女にとって初めて治療と呼ばれることを施してもらったのが私だったのだ。 痒みの和らいだ彼女の顔は本当にすっきりと穏やかな表情をしていた。 私はその目を見て、彼女に感謝されているのが判った。 気長に、丁寧に、体を清潔にしてやってその後、薬を塗ることを続けてゆけば、いつかは完治できるものだ。 私がこの国にいる限りは治療は継続できるから、頑張ってみよう。 こうして、Jupiterは治療入院をする形で我が家に飼われることになった。
+ 我が家にやってきたばかりの頃のJupiter 少し、見づらいですが、毛が抜け落ち、痩せています Somson( 我が家のGarden Boy)と一緒に
Jupiter は 代々、日本人に飼われてきているのだが、 大体2年くらいのサイクルで日本に帰国してしまうご主人様たち。 いつものように出勤していくと思っている彼女はご主人様を外まで見送る。 そして、バスで出かけるご主人様をBUS DEPOTまで行って見送る。 しかし、それがある日突然、自分が待つ家に帰ってこないご主人様たちに 言い知れぬ寂しさを何度も味合わされていたのだろう。 私の家に来てからも、私が長距離バスに乗って、出かけようとすると、 決まって彼女はBUS DEPOT .までついてきた。 そして、私の乗ったバスが出発してもずーっと、そのバスの後ろを見つめていた。 私はその時の彼女の寂しそうな表情が目に焼きついて離れなくなった。 ぽつんと立ってじっと私の乗ったバスを見つめている彼女。
「Jupiter、ダイジョウブだよ。 私はちゃんと帰ってくるよ!」
と心の中で言っていた。 3、4日して、私が旅から帰ってみると、彼女は本当に嬉しそうだった。 門から私の姿を見つけると、ちぎれんばかりに尻尾を振って駆け寄ってくる。
Jupiterは、我が家の夜警をするために雇っていた、Malawian の Watchman よりずっと頼りになった。 Malawi人は、異常に犬を怖がる。 噛まれると、不治の病である 狂犬病がこの国ではまだまだ日常茶飯事的に発生しているからだ。
彼女はたちまち、我が家の周辺にいる犬達の女王様になった。 とても堂々としていて、強いのだ。 凛々しく品のあるその姿は、他のどんな犬達に対しても、 それが雄犬であったとしても、彼女の前では尻尾を巻いてすごすごと退散してしまう。 彼女は、私の心強いガードドックとして、腹心の部下になっていった。
こうして、私の2年後の帰国の朝まで、 彼女はいつも私が旅に出るときはBus DEPOT まで見送ってくれて、 その後、ちゃんと家まで戻り、私の帰りを待っていてくれたのだった。 + ずいぶん、毛が生えてきて太って元気になった Jupiter 夕日を見に、一緒に自宅近くの丘に登ったところです
そして、 とうとう 私にも、 Malawi を離れる朝がやってきた。 8月1日 その日の朝、私は 首都 Lilongwe へはバスではなく 駐在事務所の車で向かうことになっていた。 車が我が家に Pick up に来た時、 朝日が とても明るく輝いていた。 さわやかに晴れた朝だった。 車に乗り込んだ私を、Jupiter は 尻尾を 振りながら、 何事もない いつもの朝のように、見送ってくれた。 バスで旅立つんじゃないんだものと、 彼女は、これが最後の朝だとは 気づく様子は全然なかった。
「 ご主人様、 早く帰ってきてね!」
と、ちょっぴりせつなそうな眼で私を見つめていた。 彼女の顔、 今でも思い出す。 ああ、 私が帰国した後、 まだ完治していない皮膚病の治療を、 きちんと次の飼い主の日本人がやってくれるだろうか。 薬は ? 私は、 彼女を日本に連れて帰ろう と思ったこともあったけれど Africaで 生まれて、Africaで 育ってきた彼女を 人間の都合で振り回して良いものか。。。。。
「 やはり、野におけ レンゲ草 」
後輩獣医師 と話し合い、 Jupiter は Malawi に残すことにした。
帰国後、 何度か 大量の治療用の軟膏を送ったけれど、 いつしか、私も 日本での新しい生活に埋没して行った。 ふと、 どうしているだろう。。。 きっと彼女は ダイジョウブ、元気で暮らしているよ。 どこかで、 いつも Jupiter のことを思っていた。 忘れた事はなかった。
《 その後の Jupiter 》
Maiawiから帰国して5年後、 私がParaguay での 赴任中 新年を過ごすために訪れていた. Chile パタゴニアのホテルで 夢の中で彼女に再会した。
夢のなかの Jupiter は 全身の毛がふさふさと生えそろっていて、 丸々と太ってとても健康そうだった。
「 Jupiter !! どうしたの? もう 直っちゃったの? 」
と驚いて、訊ねる私に 夢の中の彼女はとても穏やかな顔して見つめてくれた。 私は、きっとその時 彼女は 死んだのだと思った。 彼女の年令から考えて、 もう、その時、10才ははるかに超えていたはずだから。 Jupiterは、死ぬ前に 私に逢いに来てくれたんだと
そう 確信した。
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