草原の満ち潮、豊穣の荒野
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65 金の瞳、春の夢 3 赤い波、複数の伝承

〜hate you〜

むかしむかし、南の浜に特別な椰子の木が 
はえていました。
その木はまっすぐ月に向かって
はえていました。
その木は神様の木で、特別でした。

月や星をひとやすみさせるために
はえている木でした。
それはとても高く、空にむかってのびていました。
月や星はその枝に腰掛けて、こっそり
ひとやすみしては、夜空へ登っていったのです。


ある夜、何人かの少年が月をさわりたくて
木に登ろうと思いました。

ひとりめはほんの少し登った時
風の音に耳を奪われ落ちました。

ふたりめは遠く広がる水平線に
目を奪われて落ちました。

さんにんめは星空の大きさに驚いて
足を滑らせ落ちました。

よにんめは星や月の近くまで登った時、
あまりの心細さと寂しさに飛び降りました。

ごにんめは歯を食いしばり、一番上まで登りました。
そしてそこで彼は知ったのです。
遠く遠く、水平線の彼方を見つめ続けた挙げ句
そこに何もなかった事を。


彼は悲しみのあまり月や星、風や空、海
すべてを呪って身を投げました。

彼は海には落ちず砂浜で砕け散り
そのかけらは数億の砂の中に隠れ
待ったのです。

夕陽に染まった波が砂浜に寄せるように
この地上とあの空が真っ赤に染まる日を。

数えきれないかけらの数の
呪いの言葉を吐き続けながら

いつまでもいつまでも....