初めてそれを読んだとき、彼女の小説は私に向かってこう言った。
『私は何も受け取らず、そして何も返さない』
私はそれを誰にも告げなかった。言ったところで信じてもらえないと思ったし、もし自分が誰かからそう言われたらこんなにショックなことはないと思ったからだ。小説が言う言葉としては、これは相当にみじめで明日がない。だが今にしてみれば、誰からも相手にされず、信じてもらえず、とるに足りないと思われる言葉だったら、それこそ言ってみるべきだったかと後悔している。
彼女の小説は邪険に扱われていた。どうなってもいい、少しも重要ではないものだと書いた当人にはっきり断言されていたし、事実ほとんど誰からも顧みられることはなかった。
自分で作り出したものをそうやって日陰の身に追いやってしまうことに、私はほとんど迷信的な恐怖を感じる。ツクモガミ、使い込んだ道具でさえ命を持つと信じられるのに、自分の脳を原料にした物語が命を持つことはないだなんて、私にはそれこそ阿呆の世迷言にしか思えない。
よくない趣味だとは思うけど、私はそうやってあるじに捨てられた道具、壊れ、欠け落ちて、見放された物語を見つけると、黙って彼らが言うことに耳を傾ける。時間をかけてその人について出した結論のどれよりも、その言葉は真実だったりする。
私は怖い。真実が怖い。だから、非常にしばしば、自分の耳を疑い、口を閉ざす。ばかな選択だったのだ。少なくとも彼女に関する限り。
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