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ムシトリ日記
加藤夏来
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2006年06月05日(月)
世界名作劇場「桃太郎」

昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがおりました。二人は貧しくて、子供も授かりませんでしたが、村はずれに仲良くつつましく暮らしていました。

ある日のこと、いつも通りおじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に出かけました。おばあさんが川原に腰を下ろし、洗濯板を使って一生懸命着物を洗っておりましたところ、なんと、川上からどんぶらこっこどんぶらこっこと、大きな桃尻が流れてきたのです。

……。
どういう状況か分かりませんか?

つまり、立位体前屈の要領で体を折り曲げて、尻が体の頂上になってるとこを想像してください。全裸で。その格好のままで体の大部分が水没しているので、岸からは尻が流れてきたよに見えるわけです。

普通に死ぬんじゃないかと思われますが、色艶といい肌の張りといい、どう見ても土左衛門ではありません。先ほどどんぶらこっこと表現しましたが、実を申しますと桃尻は近づくに従っていい感じにスピードが緩まり……というか不自然に流れに逆らって……どうやら実は流れてるわけじゃなく川床を歩いているようです。一応流れている風を装っているのですが、どんどん岸に近寄っているのは疑いありません。

おばあさんは年季の入ったシカトをかましました。

いつも炊事洗濯に使っている川にこんなもんが漂っているのは不愉快ですが、拾う作業を具体的に考えるともっと不愉快です。だいたいおばあさんは、吉本系の自然さのない突っ込み待ちが嫌いでした。尻を出して笑いをとるのは、同時代に一人までで十分です。レイザーラモンのHGが出てきたら江頭の席は無いではありませんか。

などと関係ない思案の間も、桃尻は近寄ってきます。
ついにおばあさんのまん前でぴたりと停止し、にらみ合うハメになりました。尻はやなことに男で、頭は向こう側です。やたら張り切ってるので、裏側とか一部見えます。最低です。ややあって、おばあさんは手近なところに得物を探しましたが、洗った洗濯物くらいしか見つからなかったので諦念の域に達しました。

「まあなんておいしそうなももじりなのかしらおじいさんにもみせてあげないと」

無表情におばあさんは言い切りました。他人に押し付けることにしたようです。





数時間ほどして、おじいさんとおばあさんはお互い正座したまま、仲良く無言無表情で向き合っていました。二人の間には大きな桃尻。何をマジに家まで持って帰ってきとんだという殺気のこもった目つきのおじいさんと、一人で処理させられてたまるかという気合十分のおばあさんの間で、本気の火花が飛び散っています。

「……おい、そこの尻」

おじいさんがドスのきいた声をかけると、びく、と、二人の視線の先でぷるんぷるんの桃尻がひきつりました。そうです。岸に上げられてなお、尻は臀部のアピールに余念が無かったので、二人が正対している真ん中あたりにはピンクの物体が持ち上げられて、そのほかの部分は四つんばいというかおねだりポーズでいざなっているのです。一応きゅっと引き締まって尻の谷間とか隠そうとしているのが、唯一の救いでしょうか。書いている当人もいい加減後悔しています。

「つうか、お前よ。いい加減どっかで退けや。桃太郎―っつって、このあとどうやって太郎出すんだ。尻割っていいのか? あぁ?」
「そうですよ。出オチにしちゃ引っ張り過ぎだし、リアルに想像すればするほど単に気持ち悪いじゃありませんか。第一あまりに長いこと肛門向けられると段々イライラしてくるのですよ。SMオチになってもいいのですか?

尻がおずおずとこっち向きました。……じゃなくて頭が……まあいいかどっちでも……。

かなり年いってました。
しかもどっかの会社の重役っぽい立派な面構えと下腹部の持ち主でした。

二人はドン引きしました。

「……ぷるんぷるんの、桃尻です……」
「いや、お前……」
「おじいさん……やめてあげましょうよ……ね?」

少女のように目を潤ませる桃尻には、人生の悲哀が漂っていました。中高年層の意に染まない営業には、誰もが身につまされるようなペーソスを感じるものです。結局二人はあまりの盛り上がらなさっぷりに、しんみりと三人で語り合いながら仲良く暮らしたのでした。
尻、向けたままで。



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……どじょう掬いそこねました……
一応本日も更新しています。