相馬圭一の恐怖を支配し続けているもの。 それは雷雨と世界の終わりだ。
(『スコーピオン』諸口正巳 より リーフ発行 2005年)
モロクっちさん(HP:超絶渋系狂気都市)という方がいらっしゃいます。 上記はもちろんHNで、現在は諸口正巳の筆名で売り出し中の作家さんです。話は遡ること数年前。「東京怪談」というノベルゲームサイトで、ライターとして受注先を募集していらっしゃったときに見かけたのが最初の出会いでした。
ちょっと説明が必要になりますが、東京怪談というのは要は『小説をオーダーメイドしてもらうサイト』です。自分のキャラクターを創作して、これを登録し、クリエイターとして名乗りを挙げている(ほとんどはアマチュアの)イラストレーターさんや作家さんにお金を払って、そのキャラクターが活躍する小説や、絵を制作してもらうシステムです。
イラストは確か一枚五千円くらい、小説は千円だったでしょうか。半分をマージンで引っ張られるそうなので、特に小説を書かれる方は、冗談みたいな手間賃で仕事を請け負っておられたと思います。(小説には数人同時にキャラクターを出せるので、いかになんでも500円で20〜30枚の原稿を書いていたわけではないでしょうが)
諸口さん、当時モロクっちライターは、最初の一回受注していただいた後は速攻で「捕まらない」クリエイターさんになりました。ひとりのライターさんが受けられる仕事には限りがありますから、人気のある人は「受注窓をあける」……ネット上で受注ができる状態にすると、短時間で注文が上限いっぱいになってしまいます。
ひったくりかバーゲンのつかみ取り大会みたいなことが起こるクリエイターさんはイラストレーターさんにはたくさんいらっしゃいましたが、ライターさんは名前を覚えられる程度で、モロクっちさんは確実にその一人に数えられるようになったのです。
諸口さんは、基本的に闇とアクションと髭親父(笑)を書く作家さんです。前世からの因縁か何かというくらい髭・親父・ホラーな方なので、やはり作品は明るくも可愛くもきれいでもありません。しかし、無数に並んだライターサンプルの中から、ふっと手を止めさせる程には、その文章には魅力がありました。一瞬です。しかし、その一瞬が今では積もり積もって、決して無視できない視線になったことを、当時から黙って勝手にサイトをROMっていた私は感じることができます。
モロクっちライターについて、もう一つ覚えていることがあります。けっこうな数の依頼をこなすのと同じくらい、いやもしかしたらそれ以上の熱心さをもって、このクリエイターさんは他のクリエイターさんにユーザーとして依頼を出すことを心から楽しんでいました。異形であり闇であるにも関わらず、どうしても穏やかさや和やかさが似合ってしまう、作品の奇妙な楽天性もあいまって、これほど物語世界との幸福な関係を築き上げていたネット作家さんを、わたしは知りません。
この間第一作「スコーピオン」の最初のページをめくったところで、あまりの小気味よさに一人で笑い転げてしまいました。ブラック・マンティスの楽曲の歌詞が掲載されていたからです。はい、架空のっていうか、すでにウェブ公開されている小説の中に登場するバンドです。そして、処女作の第一章の第一ページめからこれをやってしまえる小説家です。
ここまで読んでご納得いただけましたら、次本屋に行ったときにでも一瞬ふと思い出してみてください。諸口正巳作「スコーピオン」、続編「アンタレス」は今月発売。そして「クロカマキリ」出版決定です。これ以上遅くなる前に断言しておきますが、まず間違いなく、ZIGZAGノベルズは彼女が支えることになると思います。
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