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2005年07月28日(木) さちこい。「趣味」

 私は先生のことが大好きで、先生も私のことを好きだと思うのだけど、私たちの趣味はほとんど一致していない。
 先生が見るテレビはサッカーだけ。サッカーのある日は残業なんて知らない私も知らない、先生は早く家に帰って一人で落ち着いてサッカーを見る。それ以外に先生が見るテレビ番組はニュースだけ。私が見るようなドラマやバラエティーは徹底して見ない。その浮いた時間に何をするのかというと、先生はゲームをしている。先生はよくない大人だ。
 だから私がドラマの話をしたって芸能人の話をしたって、先生は聞いているフリをするだけで何も頭に入れていない。最近の流行の曲だって、先生は何も知らない。友達とはカラオケに行ったりプリクラを撮ったりいろいろ遊ぶけど、先生とはそんなことしない。先生はそんな趣味持っていないから。
 じゃ、私たちって、何をして過ごしているんだろう。
 紅茶を一緒に飲んだり。他愛のない話をしたり。手を握ったり。そんなことをしながら過ごしている。
 今日もワールドカップの予選があるとか何だとかで先生は五時に帰宅してしまった。社会科準備室に行って、紅茶を飲んで一緒に話がしたかったけど、「もうかえる」なんてメールが来たら私は行けなくなってしまう。私はただの子供で、先生は大人だから、少し我慢しなくちゃいけないような気がする。子供同士じゃないから、大人の相手には大人に合わせた態度をとらなくちゃいけないような気がする。
 そういうとき、どうして私は先生を選んでしまったのかなぁと思う。例えば、友達のりっちゃんは、彼氏と手を繋いで帰って、一緒にプリクラ撮ってみんなに配って、カラオケにも行ってゲーセンにも行って。私は先生とそんなことをしたことがない。
 こんなことをいっぱい考えちゃうのは、きっと先生が私のメールに返事を返してくれないから。『先生、会いたい』そんなメールを無視できちゃうほど、先生は私よりワールドカップの方が大事だ。私は私で子供だから我慢できなくなっちゃって、こんなメールを送って後悔していたりする。
 先生がいないから、友達たちとカラオケにいる。先生がワールドカップに夢中なんだもの、私だって友達と夢中になる。これから、ファミレスへ行って、ボーリングでもしちゃうのもいいかもしれない。先生とはこんなことできない。だから、思う存分、先生がいない間に満喫する。
 カラオケで思う存分歌った。声が出なくなっちゃうかもしれない。それぐらい大声で。ストレス解消には十分だ。先生の知らない歌を歌う。先生の車に乗っているときに聞くCDなんて、先生が大学時代に集めたCDだらけだ。そんなの、古すぎてついていけない。
 みんなで自転車を漕ぎながらファミレスに向かう。合計七人の団体様。歩道を塞いで走る。先生とは自転車なんて漕がないから、とても新鮮な気分になる。
 ファミレスではドリンクバーで乾杯。先生とはこんなことしない。先生が大体奢ってくれるから私はそれほど自分の財布の中身を心配することないし。先生はもっとオシャレなレストランに連れていってくれる。もしくは先生が大好きなラーメン屋。私は、ラーメンの麺がすすれないからニガテなのに。
 なんで先生なんだろう。なんか、いろいろ、時間も年も趣味も合わないのに。
 ドリアを食べている最中に、携帯が鳴った。先生専用の着うた。私は慌てて携帯を取る。メールが入ってる。
『かった!』
 やっぱりひらがな。変換するのが面倒くさいんだ。私はぷっと吹き出した。
「なぁに、例の、年上彼氏?」
 りっちゃんが携帯を覗き込もうとする。よかった、メールブロックをつけていて。といっても、名前欄は「マキ」にしてあるからバレないのだろうけれど。
 メールを返す。素早く両手で。でもその最中にまたメールが来た。『いえくる?』 だから、ひらがなだけじゃ、解りにくい。私は思わず笑んでいる。それを見て、前に座っている男の子が身を乗り出してくる。
「さっちゃん、彼氏いたんだ」
「年上も年上だから放置されているんだよ、普段」
 答えたのはりっちゃん。ううん、放置なんてされてない。だって毎日会っているもの。だって、私の彼氏、みんなの槙ちゃんだもの、なんて言ったら、きっとみんなはひどくびっくりしてしまう。
 私はいったんファミレスを出て、先生にコールする。先生はすぐに電話に出る。
「サチコ?」
 先生の声。じんわり体に染みる。
「サチコサチコ、勝ったって。勝った勝った、まじで勝った!」
 電話口ではしゃぐ先生はやっぱりどこも先生らしくない。先生はとても子供じみて見える。私より八歳も年上の人なのに。おかしいの。その子供らしさがとてもいとおしくなってくる。
「サチコ、今、家? 家、行こうか?」
「ううん、今、みんなとファミレス」
「ファミレス!?」
 先生の声が大きくって、私は電話を少し耳から遠ざけた。
「ファミレスって、お前、友達って、今、何時だと思ってるんだ!」
「え、……八時、だよ?」
「八時じゃないか! 高校生は早く家に帰りなさい!」
「え、だって、まだ……」
「男がいるんじゃないか、男が」
「え、山下くんと木田くんと松野くんだよ?」
「山下と木田と松野? ……解った、サチコ、どこのファミレス? ガスト? 迎えにいくよ」
 私は目をぱちくりさせる。だけど、電話から聞こえる先生の声は真剣そのもの。
「だ、だめだよ、皆に顔見られちゃうもの」
「だめだ、もう夜遅いし、こんな時間に一人で自転車で帰るんだろ?」
「じゃ、送ってもらう」
「だめだ、もっとだめだ。迎えにいく」
「え、え、先生……」
「何?」
 私はえっと、と言葉を考えた。空を見上げる。ああ、満月だ。みんなと自転車漕いでいるときはこんな余裕なんてなかった。
「大好き」
「な、何言ってんの? そこで言うことか、サチコ? じゃ、行くから。えっと、近くのあのコンビニいるから」
 私は携帯を切ってファミレスの中に戻っていった。鞄を持って立ち上がる。あ、と思ってお財布から自分の分だけのお金を出す。
「あのね、あの、……帰ってこいって言われちゃって、だから、帰るね」
 ええーとブーイングが飛んだ。
「何、年上彼氏?」
 りっちゃんがにやつきながら尋ねる。私はうんと頷く。
「あのね、サッカー、勝ったから嬉しくって私に会いたいんだって」
 そう言ったら皆からため息が漏れた。
「子供か……」
 みんなは、その子供みたいな人が槙ちゃん先生だと知ったらびっくりしちゃうだろう。
 私は微笑みながらみんなにばいばいする。自転車に乗って、生暖かい空気に包まれながら先生のいるだろうコンビニに向かう。どうせ車で来たって、私は自転車だから一緒に乗れないのに。先生は抜けている。まるで子供だ。
 私はうきうきしながら自転車を漕いだ。まるでこの気分、遠足に行く前日みたい。
 趣味なんて合っていない。年も。放課後にデートするような時間も合ってない。でも、そんなの、私たちの間には全くいらないみたいだ。










 突発に書きたくなりました。(たぶん執筆時間は三十分ぐらい……)
 ちなみに前回のさちこい。はコチラ。

 なんか、意味もなく書きたくなるシリーズとして、時々日記に現れるんだろうか、これ……。(でも本当に殴り書き)




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