ひとりごと
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久々の庭仕事に励んで、一段落して腰を伸ばした夕方、 フェンスの向こうからお隣さんが声をかけてきた。 「これからリズの散歩に行くのだけれど、ご一緒しない?」 「行く、行く!連れて行って〜。」 私は急いで部屋に戻って手を洗い、デジカメだけ持って外に飛び出した。
子犬のリズちゃんは、最近やっとお散歩を許されるようになったばかりだ。 私はまだ一緒に行ったことがなかった。 もうすっかり私に馴れてくれているリズちゃんは かわいいピンクのリードをつけて、立ち上がって歓迎してくれた。
仲よしのお隣さん2人と、そのお嬢さんたち2人、 そして私、の5人がリズちゃんのお散歩のお供だ。 はしゃいで跳ね回るリズちゃんに、お嬢さんが嬉しそうに引っ張られる。 お隣さんと話しながらその後姿を見ていたら、お嬢さんが振り返って、 「リズ、引いてみる?」と、私にリードを渡してくれた。 嬉しかった。 犬の散歩は久しぶりだ。
「さすが、慣れているね。上手ね〜。」と、みんなにおだてられながらも あっちこっちに飛び跳ねる子犬を制するのに真剣だった。 好奇心いっぱいの子犬は、なんでも匂いをかいで、なんでも口に入れようとする。 「ダメ!」とリードを引っ張って叱る。 リズちゃんは、くじける様子もなく、また次のおもしろいものを見つけては目を輝かせていた。 こちらは目が離せない。 気がつくと、4人は先のほうに行っていた。
「おおーい!」と横断歩道の向こうで、お嬢さんたちが手を振る。 後ろに続く桜並木が輝いている。 私もリズちゃんも、早くあそこに行きたくてたまらない。 信号はまだ赤。 私が言ったとおり、ちゃんと立ち止まっているリズちゃんだけれど しっぽもお尻もうずうずと走りたがっていた。 青になった。 みんなのところに駆けていった。
「桜を見ていこう。」とお隣さんが言った。 並木の桜を見上げながら歩いた。 都心よりちょっと遅めの桜は、もう少しで満開だ。 夕陽にほんのりそまって、暖かい色で揺れていた。 リズちゃんは、道路に落ちている花びらの匂いをひとつひとつ確かめている。 子どもたちは、先に走って行ってしまった。 私たちは、黙って歩いた。 転勤の話は誰もしなかった。
桜並木を往復したあと、「公園の桜も見たいな」とお隣さんが言った。 少し遠回りをして、小さな児童公園の桜の下を歩いた。 日当たりの加減なのか、この桜はまだ五分咲きだった。 線描きのような枝とつぼみの向こうの水色の空に、白い月が見えた。 「きれいね。」 と、道路に立ったまま、みんなでお花見をした。
「やっぱり行っちゃうの?」と、ついに聞いてしまった。 「うん。かもしれない。」と、お隣さん。 しんみりとしてしまった。 「でも、また帰ってくるよ。家があるし、みんなもいるものね。」 お隣さんは、いつもの明るい声で言ってくれた。
来年の桜は別々のところで見るのだろうな。 今日のことを思い出すのだろうな。 そしていつか、何年後か、大きくなった子どもたちとリズちゃんと ちょっと年をとった私たちとでまたこの桜を見上げられたらいい。
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