ひとりごと
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去年の秋から楽しみにしていた。 谷川俊太郎・賢作の親子ライブ。 近くの小学校での催し物だ。
大好きな詩人の谷川俊太郎さんがやってくる。 賢作さんはジャズピアニストだ。 詩人とピアニスト親子のライブってどんなものだろう? 予約して買っておいたチケットと引き換えに だだっ広いひんやりした体育館に並べられたパイプ椅子に座った。 椅子に座る私たちの前には、小学生たちがひざを抱えて並んで座った。
校長先生の挨拶が終わり、初めて見る詩人とピアニストが ママさんコーラスの歌に迎えられてひょうひょうと入ってきた。 いつまでもざわざわと落ち着かない低学年の子どもたちは いきなり始まった「うんこ!」と言う詩の朗読に一気に心をつかまれた。 集中、集中。 わくわくと期待に光るたくさんの目。
賢作さんのピアノやパーカッションをバックに 俊太郎さんの詩の朗読が続く。 ことばあそびや音あそび。 子どもたちは大喜びだ。 その後ろで私は、詩人本人が読む詩に酔っていた。 これが本当のリズム、間なのだ。 文字だけで何度も読んだ詩が、生き生きとふくらんではずんで響いた。
休憩を挟んで始まった高学年の時間、子どもたちはしんと静かだった。 詩の朗読と美しいピアノの音色に耳を澄ませて聞き入っていた。 「生きる」そして「道」。 言葉の間に風景が浮かんだ。 きっとそこにいた子どもたちにも大人たちの心にも。 短い時間に旅をしているようだった。
夢から覚めたように体育館に明かりがついた。 拍手に送られ、入ってきたときと同じようにふたりはひょうひょうと出て行った。 名残惜しくその背中を見送った。
子どもたちが教室に戻ったあと、体育館の出口でCDが販売された。 一緒に行った友だちと1枚ずつCDを買って、サインの列に並んだ。 体育館の窓を覆っていた暗幕は左右に引かれて 谷川親子の後ろから明るい光が射していた。 ひとりひとりと話しながら、俊太郎さんはCDのライナーやケースにサインをする。 私もCDのケースにサインをいただいた。
そして何気なく持って行っていた3冊の詩集のうち、一番古い本にも手が伸ばされたのだ。 「こんなぼろぼろになった本を見ると嬉しいんです。作者としては。」と にこにことおっしゃって、サインと握手をしてくださった。 中学生のころから持ち歩いている黄ばんだ文庫本の、若い「著者近影」の裏に 谷川俊太郎さんの名前と今日の日付が黒々と書かれた。
体育館の外はまぶしかった。 陽射しが暖かかった。 何かで胸がいっぱいだった。 前よりもっと大事になった本とCDを抱えて うららかな春の道を帰ってきた。
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