ひとりごと
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今日は着物でお出かけ。 私がもっとも敬愛する男性のひとり お茶の先生の米寿のお祝いのお茶事だったのだ。 本当におめでたい。嬉しい。 場所は霞ヶ関や日比谷に近い大都会。 そんな中に静けさをカプセルに包み込んだような 緑でいっぱいの小さなお茶席があった。 私たちは、丁寧に水を打たれ掃き清められた露地に歓迎された。 青々としたヤツデや万両、竹の香りがすがすがしい。 葉を落とした梅の枝をシジュウカラが鳴きながら飛び交う。 土の壁に揺れる葉の影を見ているとなんだか懐かしい気持ちになる。 ひとつひとつ取り合わせを考えて選ばれた茶器や掛け物。 床の間を飾る花は清楚な白玉(椿)と照り葉。 お菓子やお料理、どれをとっても元気に米寿を迎えられた喜びと もてなしの気持ちがいっぱいにあふれていた。 作法どおりに進める緊張感を伴いながらも 楽しいお祝いの席は進んでいった。 おいしいお酒を何杯もいただいてみんなの顔色が花のように染まった。 お点前や配膳を担当されたのは先生の家の二人のお嫁さん。 甲斐甲斐しい姿を先生の目が暖かく幸せそうに見守っていた。 先生はこの夏、最愛の奥さまを亡くされた。 明るくおおらかで影に日なたにいつも支えになってこられた方だった。 今日の席には奥さまのアイディアもいくつも盛り込まれていると言う。 それを話す先生の声は静かで優しかった。 茶室のそこここに奥さまの気配が感じられた。 黄昏に入る少し前にお茶事は終わった。 私たちは帰る前にひとつずつ内祝いの箱をいただいた。 陶芸もなさる先生はお茶碗やお茶入れ、花入れなどの茶道具もご自分で作られる。 いつもはこのようなときにはお抹茶茶碗を作ってくださった。 「今日は茶道具でなく食器です。これも家内の提案だったのです。 奥さま方にはその方が使っていただけるのではないかと。」 今回の品々は夏に入る前から少しずつ心をこめて作られたのだそうだ。 「みなさんそれぞれ違うのですよ。」 その場で開けたい気持ちを抑えて、みんな大切に持って帰った。
久しぶりの着物と長い間の正座に少しばかり疲れて 電車やバスの中ではうとうと居眠り。 気がつくたびにいただいたばかりの大事な箱が手にあることを確かめた。 家に帰って着物から脱け出てその開放感をつかの間味わい いつもの服に着替えて慎重にそっとに包装を解く。 柔らかい白い紙の中からきらりと草色の肌が光って見えた。
真中に「寿」と彫られた深い緑の丸いお皿には 豊かに実った稲穂がひと房添えられていた。 「米寿」だった。
先生おめでとうございます。 そしてありがとうございます。 これからもいつまでもお元気で。
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