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----------2005年11月03日(木) 私の名前を消しなさい
自分の過去に襟首をつかまれた。受話器の向こうの甲高い声がひとつの名前と焦点を結んだ瞬間、足元がぐらりと揺れた。
あれは幸福な時間だったか? 数年経って「あんな時代もあったね」と笑って振り返れるような時間だったか?
否、否、否、そんなことは決して。
這い上がった、つもりだ。立て直した、つもりだ。消し去れない証拠が身体に刻みつけられているとはいえ、私はそれを振り払うための努力を決して怠っていない。
現在の時間に突如暴力的に介入してきた過去からの呼びかけは、暗く澱んだ夜から懸命に遠ざかろうとしている私の日々の営為に対する侮辱のようにも聞こえた。どんなに逃げても、所詮、結局、おまえは。
それでも、私は。
私はもう二度と、非生産的な交渉を望まない。過去の瞬間において生じた感情の「責任」を取り続ける「義務」はない。愛情が憎しみに変わるように、友情が嫉妬に変わるように、人は変わる。変わることを誰も咎められない。
私は変わることを望んでいる。それだけを望んでいる。
あなたの記憶から、私の名前を消しなさい。今すぐに。
すべてのメモリから、私の名前を消しなさい。
こんなことはできるなら書きたくはなかった。
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