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----------2005年05月31日(火) シビアな現実

「で、どうでした?」
「そうねえ、ちょっと湿っぽすぎるわよ、あの海綿。月の途中で辞める、なんて言い始めるんじゃないかってはらはらしたわ。」
「確かにちょっと、内省的なところが欠点でして。」
「まあでも、あの値段にしたら結構頑張ってくれたと思うわ。割と積極的に出かけてたみたいだし。」
「契約の更新はどうされますか。」
「正直なところ、今厳しい時期だからね。貝殻かぶられても困るのよ。もう少し利口で交渉上手な海綿がいいんだけど。」
「分かりました、では16201249の海綿でどうでしょうか。大手銀行に勤めておりましたので今月の海綿よりははるかに社会経験があります。ま、スキルがある分少し時給が高くなるんですが。ワード、エクセルはMOUSの上級を持っておりますね。」
「少なくとも突然海に行ってたそがれたりはしなさそうね。」
「それはないです。今月の海綿はちょっと変わった経歴の持ち主でして、随分長く大学院に籍を置いて異端の研究なんかをしておったようです。少々アンコクな傾向があるようですね。」
「文系の大学院なんて出てる海綿にろくなのはいないのよ。かく言う私も文系の大学院生がいかにも好みそうな名前をしてるわけだけれどね。とにかく今月の海綿は修道院に入りたい、なんて言ってる段階でダメね。来月はその元大手銀行の海綿にするわ。」

そういうと、ナジャは煙草の煙をふっと吐き出して、控え室でふるふると震えていた海綿をつまみあげると、右手でぎゅっと絞った。海綿がこの1ヶ月吸い上げてきた、ツツジだとか冷たい雨だとか太陽の光だとかバラの香りだとか海の匂いだとかは、ナジャの右手の中でペイルブルーの液体になり、ぽたぽたとガラスの受け皿の中に滴り落ちていった。どうやら海の成分が少し強かったみたいだ。ナジャはその液体をガラスのビンに詰め、「2005.5」とラベルを貼ると、デスクの後ろにある木製の戸棚の扉を開け、ヘーゼルナッツやキウイグリーンやラベンダーモーブの液体が詰まったビンの隣に置いて、何事もなかったような顔でぱたん、と扉を閉めた。

ルールその31:いつ仕事をクビになってもいいように貯金を心がけること。




そうして海綿は、カイメンになった。