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----------2005年01月08日(土) ペンギンさんが通る
「それに、ここだけの話ですが、「自然」といふのはぜひ紹介して頂きたい貴婦人ですよ。なにしろ、猫も杓子も自然、自然と言ってゐますが、誰一人お目にかかつた者はゐないのですからな!」(ヴィリエ・ド・リラダン「未來のイヴ」/創元ライブラリ)
ぺたこん、ぺたこん、とかわいい足を「人工」の雪の上で動かしてペンギンさんがこっちに寄ってくる。少し手を伸ばせばあの暖かそうな羽毛に触れられそうだ。けれど柵がある、警備員が見ている、「王様ペンギンの嘴はとても鋭くなっております、決して手を伸ばさないで下さい・・・」
ぽってりと丸いフォルム、見事な黄金色の首輪、燕尾服のような毛並み、それらはすべて「自然」の産物であるはずなのに、海遊館で生まれ海遊館で育った7匹のペンギンさんたちは「人工の自然」なのだ。飼育員が手を叩けば、7匹で揃ってその後ろをぺたこん、ぺたこん、とついていく。ペンギンさんたちのために敷かれたカーペットの周りは黒山の人だかりで皆が皆携帯やデジカメを用意してパレードを待ちかねている。「人工の自然」であるところのペンギンさんたちは臆することもなく人だかりの中へ歩み出ていく。
ぬいぐるみだ。とても「自然」のものとは思えない。だっこしておなかに触れて重みを(13キロもあるらしい)感じてみれば「それ」が生きていることを実感できるのだろうか。目の前にいて、動いているのに、ペンギンさんたちはつくりもののようだった。
飼いならされた「自然」はいつもどこか物悲しい。
でも、かわいい。
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