思い出と旅行
裕福なのに老後を気にして節約に励んでいた継母は
これからは思い出を大切にすると言った。
父と継母ちゃんと私と息子の4人で旅行した。
コロナ禍が拡大する直前だった。
1泊旅行だったけど
息子と両親が旅行するのは初めてで
私と息子が一緒の部屋で寝るのは20年ぶりだった。

息子が運転する車で連れていってもらった。
胃を切除した父は、食が細くなり痩せ細っていた。
食べられない父のために、息子は少ない数のコースを選んでくれ
夕食はホテルの個室でいただいた。
初めて見る綺麗な盛り付けの料理は本当に美味しかった。
父は完食した。
部屋に戻ると二人で大きなお風呂に入り
孫に背中を流してもらったとおじいちゃんは感動していた。

それから父は毎月旅行しようと言い出した。
娘を失った悲しみは癒えないだろう。
妹のしたことは最後の親孝行だと思っている。
父がいなくなったら、妹は生きていけなかっただろう。
父も妹のためにと仕事を続けただろう。

継母が今では大黒柱だ。
父は専業主夫になると言ったが、何もしないそうだ。
寝る前の読書は欠かさない。
司馬遼太郎を繰り返し読んでいる。

父はコロナのワクチン接種を2回受けた。
継母も1回目を済ませた。
私と息子が済めば、また旅行できる。
夫も参加すると言った。

私は継母に感謝してもしきれない。
父の面倒を見るだけでなく、飾った写真を見ては
お父様は本当に男前で美男子でと褒める。

私は父に幸運だねと言った。
びっくりしていた。

やりたい放題に生きて
傲岸不遜
周囲の女性全てを不幸にして
何もかも失って

妹の位牌を作ってもらい
毎朝仏壇にむかい読経して
毎日四天王寺さんにお参りして
この2年ですっかり体重が戻って

疎遠にしていた兄弟姉妹と仲直りした。
高齢になり痴呆が出た兄弟がいる中
父の記憶力は衰えない。
知識も豊富なままだ。

米寿の祝いに、私は遺影を撮りに行った。
スーツ姿と普段着の2枚。
祝いに遺影はおかしいけど、父の願いを叶えた。

妹は大好きな母のもとに行った。
それでいいと思う。
死んでからも迷惑をかけるつもりだと
怒り狂った時期は過ぎた。

自死の遺族の会があるそうだ。
赤の他人に何を話すのだろう。
同じ境遇ならわかりあえるものがあるのか。
私はここで吐き出す。
共感も相槌もいらない。

























2021年06月20日(日)

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