それぞれの生き方
彼の誕生日に何か贈りたいと思った。
何か欲しいものある?と尋ねると、ようが欲しいと答えた。
こんなとき、私はいつも、私はモノじゃないと、とっさに
思い、返してしまう。
モノはいらない、ようが欲しい。
彼の言いたかったのは、こうだとわかっているのにね。

彼がお揃いの置物を懸命に探してくれていた。
「置物」と聞いて、「熊が鮭を咥えている木彫り」が
浮かんだ。
置物って言葉を久しぶりに聞いた。
だから散々、いくらもつけていいよと冗談を言った。

私が寂しがらないように、いつも見ていられるように
彼はパソコンデスクに飾れる、小さな二対のウサギを
探していた。
彼は出かけるたびに店を覗き、探してくれた。
ここはやっぱり田舎だね。思うようなものがなかなか
見つからない。

対の物をそれぞれが飾ると思っていたら
二つとも私が持っているように考えていたそうだ。
それは少し寂しい気がした。
それとも、並んでいるほうが楽しそうかしら。

日曜日。
彼と知り合ってから、日曜が嫌いになった。
だから日曜が必ず休めない仕事についた。
彼ではないのに、彼はこんなふうに過ごしているだろう
と想像を膨らませてばかりの職だった。
日曜を忘れるための職業が、思い出させる職だと知った。

彼と一度別れ、一年間離れ、私は日曜が休日の
仕事をしている。
私の思いに気づいていないフリが癖になり
いつのまにか、答えないといけない状況になるまで
知らんフリをするのが私との接し方になっていってた。
少し前、彼が正直に話してくれたあの頃のこと。

先週は、毎日楽しく今起こっていること、どんなふうに
過ごしたかを報告し合った週だった。
仕事上の深刻な話もあったけれど、二人が抱えている
問題の進展は何もなく、私の頭にも浮かばなかった。
彼との今後がどうなるか、それも浮かばず、二人で
過ごす時間は楽しかった。

今日は日曜日。
だけど私はざわめかず、あの頃の狂おしい思いは感じない。
1ヶ月に1度逢えるかどうかわからなくても
私の気持ちは落ち着いている。

昨日逢った友達は、エルメスで身を飾っていた。
実家住まいで、20年以上同じ会社に勤め
独身のまま、高齢の両親を抱えている。
これからも結婚するつもりはなく、恋人もいないと言った。
複数のお稽古事に通い、趣味も多数持っている。
海外旅行の話になると、いくつものブランドが出てきた。
仕事帰りに立ち寄るレストラン、バー。
楽しそうで充実している様子。

彼女がエルメスの職人たちの手仕事を話して
なぜ高価なのかを説明してくれたとき
私は思い出していた。
パリ本店から顧客向けに毎年送られてきたカタログ。
彼女が知る以前に、私は知っていたのだと思い出した。
昔の私なら、傲慢さが顔に出て、彼女の話を遮ったか
もしれない。
バッグの値段を語る彼女に、私は金額を知らなかった
自分を思い出していた。

今の私は、モノに対する執着が薄れ
これいいねと言っても本当に欲しいモノはないと
彼女に正直に言った。
今何が流行っているのか、どんなシリーズがあるの
かも知らない。
雑誌も見ないし、ウィンドウを覗いても
商品よりディスプレイのデザインが気になる。

彼が探してくれているモノと、私が彼に贈りたいモノ。
同じモノではあるけれど、込める思いが違う。
彼女の場合は、一人で生きていく決意の表れだろう。
強い彼女がまぶしかった。
それぞれの人生だと考えた。

2005年02月27日(日)

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