チフネの日記
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| 2011年12月30日(金) |
神様に、願うこと 跡リョ |
「おう。じゃあ、また年明けにな」 「っす」
手を振って自転車に乗って行く桃城の背中を見送ってかr、リョーマはくるっと回れ右をした。 冬休みになっても毎日毎日迎えに来ている跡部の元へと向かう為だ。
「挨拶は済んだか」 いつも通り偉そうに腕を組んで立っている跡部は私服姿だ。 青学の三年生達が夏以降に引退したのと同じく、彼もまた氷帝の部長の座から退いた。 トレーニングは欠かしていないようだが、その他の練習はどうしているか全く知らない。 跡部が何も言わないから聞けないまま今日まで至る。 本当は気になっているけれど一言言ってしまえば何かが変わりそうで、リョーマはそれを躊躇していた。 言いたいことは何でも言ってきたはずなのに、肝心のことが聞けないなんて。
(どうかしている)
跡部の前に立ち、「終わったよ」と声を出した。
「今年最後の部活だったから、少し長引いていたな」 「うん。年明けまで休みだからって、海堂先輩が張り切っていたおかげで予定よりも遅くなった。 その間、車の中にいたんだよね?」
この寒空の中立っていたら風邪を引くかもしれない。 跡部の意思で迎えに来ていることではあっても、さすがに病気などしたらリョーマだって気にする。
「当たり前だ。こんなところでいつまでも待っていられるか。 ほら、車に乗るぞ」 「うん」
その答えにほっとして歩き出した跡部の後ろをついていく。 でもその耳が少しだけ赤くなっていることに気付き、(やっぱり外で待っていたんだ)と思う。 いつもより遅くなるからまだかまだかと何度も車の中と外とを行ったり来たりしていたかもしれない。 夏の間や秋は何とも思わなかったけれど、冬の最中はこんな風に待たせたくないなと考えてしまう。 ましてやもう跡部が部活を引退した今、リョーマが氷帝へ行くことはない。 常に跡部の方が帰宅時間が早いからだ。 一方的に待たせるばかりって負担だよなと思う。
「おい。早く車に乗れよ」 「あ、うん」
開けられたドアから車内へと入る。 暖められた空気にリョーマは体から力を抜いた。
屋敷に到着した頃には外は真っ暗になっていた。
跡部の部屋の窓から何も見えない庭を見て、すぐに離れてソファへと座る。 するとタイミング良く「おい、お茶が入ったぞ」と、跡部が使用人を連れて中へと入って来た。 ティーポットとお菓子をテーブルの上に並べ、使用人は一礼して去って行く。 今日もお菓子は美味しそうだけど、なんだか手が伸びない。 さっきから、いや前から引っ掛かっていたことがリョーマの心を占めている所為だ。
「どうした?食わないのかよ」 珍しいなと笑って、跡部はカップを手に取った。 ふわっと湯気が立った向こう側の顔を見詰めながら、リョーマは口を開いた。
「ねえ、俺明日から部活が休みなんだけど」 「そうだな」 「年明けまで跡部さんの都合が良ければ、コートで打とうよ。 ここの所ずっと練習が忙しくてそれどころじゃなかったけど、久し振りにあんたとテニスがしたい」 一気に捲くし立てる。 ここまで我慢していた何かが噴き出した所為かもしれない。 すると跡部はこちらに視線を合わさないまま「そうだな」と答えた。
「けど俺の方も年末年始に掛けて両親が帰って来るから、いつとはハッキリ言えねえな。 これでも色々忙しい身だ」
「悪ぃ」と言ってカップを置く跡部に、リョーマは立ち上がって「だったら待ってる」と声を上げた。
「跡部さんの都合の良い日が来るまで待ってる。 だから絶対コートで打とう。 悪いなんて形ばかりの謝罪はいらない。 俺は、あんたとテニスがしたいだけなのに」
秋以降からずっと不安に思っていることがあった。 もしかして跡部はテニスを中等部だけで止めてしまうんじゃないか。 引退してもテニス部に顔を出している気配もない。 誰かと打ち合っているという話も聞かない。 勿論跡部には跡部の道があって他のものを選んだとしても責められない。 だけどリョーマとしてはもう少しの間コートに留まって欲しいという気持ちがある。 公式での試合であれほど苦戦してやっと勝った相手だ。 次にやる時もきっと面白いゲームになるだろう。 せめてもう一度公式試合で戦うまではコートを去って欲しくない。 それが我侭な願いだとわかっていても。
跡部の顔を見ることが出来ず視線を伏せると、 「お前が何を考えているか、大体わかっているぜ」と苦笑交じりで言われる。
「まあ、ちょっとこっち来て座れよ」 隣に座るよう指差されて、リョーマはゆっくりと足を動かし跡部のすぐ隣へと腰掛ける。
「俺がテニスをやめるとでも思ったか?ああ?」 前髪に触れられて、そう言われる。
「だって実際そうでしょ。ここの所テニスしてるって話、あんたの口から聞いていない」 「バーカ。トレーニングはしてるって言ったろ。自主練習は欠かしていない」 「それじゃあ……」 「でも以前は卒業したらやめるつもりだった」 きっぱりと言われて、返す言葉が出ない。 だけど跡部の表情はどこか吹っ切れたような生き生きとしたものだったので、黙って続きを待つことにする。 「けどお前とか、他にも面白い奴が沢山いるし、このまま辞めたら未練が残りそうだから続けることに決めた。 親には反対されているけどな。 だから今回の顔合わせの間に説得してみせる。どうせ揉めるだろうから、お前とハッキリした約束は出来ねえってわけだ。わかったか」 「なんだ……そうだったんだ」
ほっとして脱力した体をそのまま跡部の肩に預けると、「安心したか?」と言われる。
「当たり前じゃん。こっちはあんたがいつやめるって言い出すか気にしていたのに」 「全部終わってから話すつもりでいたんだよ。説得失敗したら、それこそ格好悪いだろうが」
これで絶対失敗出来なくなったなとぼやく跡部に「大丈夫」とリョーマは手に触れて言った。
「失敗なんかしない。 跡部さんの気持ちがちゃんと通じるって信じているから、自信持っていいよ」 「何の根拠があるかは知らねえけど」
フッ、と笑って跡部からも手を握り返して来る。
「お前に割れると何か勇気が出るな。上手くいきそうな気がする」 「……うん」 「来年は沢山コートで打とうな」
保証の無い約束だけど、リョーマは力強く頷いた。
きっと上手くいく。 そう信じている。
どうか年が明けても二人にとって良い一年でありますように。
リョーマにしては珍しく、神様に祈りたい気分になった。
終わり
チフネ

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