チフネの日記
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「飽きた……」
ぽいっとコントローラーを放り投げる越前を見て、 今度こそこちらを向いてくれるのかと期待する。
ところが、「眠い」と呟き、そのままソファーに横になってしまう。 俺は慌てて「寝るなよ!」と起こしに掛かった。 ろくに会話も無いまま、一日が終わってしまいそうで。 何の為に一緒にいるのか、わからない。
肩を掴んで軽く揺さぶると、「寝かせてよ……」と、越前は半分夢心地の声を出した。
「お前なあ、部屋に入るなりゲームやり始めて、終わったと思ったらそれか。 少しは俺の相手をしてくれたっていいだろう?いや、するべきだ。 たらふく飯食って、その上部屋の中央を陣取ってずっとゲームやって、途中ファンタを飲んで、またゲームに戻ってその繰り返ししかしてないだろ。 そんな快適な空間を提供した俺様に感謝しやがれ」 「あー、わかった、わかった。落ち着いて。感謝してるって。 けど新作のソフトあるって勧めたのは跡部さんの方だけど? やってもいいって言ったじゃん」
それは、お前を部屋に引き入れる為の口実だ。
目を逸らして、溜息をつく。
使いもしないゲーム機をわざわざ購入し、越前が欲しがりそうな最新のソフトも用意した。
それもこれも、『部屋で二人きりで過ごす』という単純な目的の為だけだった。
勿論部屋じゃなくても、二人きりで会うことは出来る。 ただ、越前は会うといつも「テニスしよう」とそればかりを口にする。 お前の頭の中はテニスしかないのか、と言いたくなる。
俺だって越前とテニスするのは好きだ。 楽しいし、刺激にもなる。 けれど、それが毎回毎回続くと……、付き合っている意味があるのかとふと虚しくなる。
テニスばかりしていたんじゃ、ただの友達と同じだ。 友達だって出来るようなことだけを、していたくない。 それよりもっと近付きたかったから、恋人になったはずなのに。
どれだけ勇気を出して想いを告げたか、こいつはわかっていないんだろうな。 誰よりも高いプライドをぐしゃぐしゃに潰れるような気持ちで、好きだと言った。 押して押して、それでOKを貰った時は舞い上がってしまいそうなほど嬉しかった。
今だって、こうして室内に二人だけで居るっていう事実にちょっと緊張もしてたりする部分もあって。 なのに越前は呑気に寛いで、その上勝手に寝そうになって。
この温度差は何なんだ。 俺ばかり空回りしているのかよ、と肩を落とす。
それでも好きなんだから、どうしようもない。 これが惚れた弱みというやつなのだろうか。
「ねえ」
ごちゃごちゃ考えている間に、越前が俺のシャツを引っ張っていることに気付く。
「なんだ」
改めて顔を越前の方に向けると、少し気まずそうにこちらを見ていた。
「あのさ、俺といてあんたは楽しいの?」 「は?何言ってるんだ。そんなの聞くまでも無いだろうが」
楽しいし、嬉しいに決まっている。 今更言うことか、と眉を寄せると「言ってくれなきゃわからないよ」と少し拗ねたように言われる。
「テニスしている時は、何も考えなくてもいいけど。 それ以外はどうしたらいいか、よくわからない。 あんたと俺って学校も学年も違うし、テニス以外の共通の話題も無さそうじゃん。 だから、つまり、一緒にいても面白い話なんて出来ないよ。 それでも、いいの?」
無口な彼にしては珍しく、長く話してくれた。 その内容を理解するのに、しばし時間を必要とする。
つまり、俺が退屈していないかどうか、心配してくれてるのか?
「そんなの、いいに決まってるだろ」
俺の回答に、越前はどこかほっとしたような表情を浮かべた、ように見えたのは気のせいじゃないと思いたい。
「別に会話なんてなんだって構わねえよ。 だからもう少し、テニスとかゲームとかじゃなく、俺にも興味示してくれよな」
こつん、と額に拳を当てると、越前は驚いたように目を見開いた後、 「うん」と小さく頷いた。
「つまり、俺に構って欲しくて拗ねてたってわけ?」 「……それは違うんじゃねえか?」 「え、でも今のあんたの顔、カルピンが構って欲しくて擦り寄ってくる目と同じなんだけど」 「カルピンって誰だよ」 「あ、家で飼ってる猫」 「猫と同じ扱いかよ……」
露骨に落胆してみせると、声を立てて越前が笑った。 やがてつられて、俺も笑う。
そこから飼ってる猫の話や、俺の家にいる動物の話になって、 気付くと3時間以上も会話していた。
そんな幸せな、これからも続く二人きりの時間。
チフネ

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