チフネの日記
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2010年10月17日(日) 戸惑いの日/恋を知る日 9(完結)

「お前のことが、好きなんだ」
生真面目な顔をして言われた告白に、リョーマの心は喜びで満たされた。
その言葉が、欲しかったのだ。


そして、自分も。
一瞬で、手塚の気持ちを自覚した。
だから不安定になったり、苛々していたのかと理解する。
目では好きだと言っているのに、何も言わない手塚の態度に振り回されていた。
だけどこうして口に出された今、自分がどうするべきかハッキリわかった。

この人が、欲しい。
好きだから、眠れなくなる位に好きになってしまったから。
手塚を自分のものにしてしまいたい。
方法はわかっている。
一言、伝えればいい。

「俺も部長のこと、好きだと思うから」



こうして手塚とリョーマは両想いになった。
お互いの気持ちを知っても、ドキドキすることには変わりはないが、
苛々したりすることは無くなった。
手塚はリョーマのことが好きで、リョーマも手塚のことが好き。
それは揺ぎ無いことだ。


その翌日、満面の笑みを浮かべてリョーマに近付いて来た不二が、
「手塚にどんな告白された?あいつ、ちゃんと言えたの?ね、教えてよ」と問い詰めてきて、
手塚が部長権限を使って「グラウンド30周だ!」と叫ぶ騒動があったりもしたけど。

二人の関係は、穏やかに幸せに続いている。
今日も、明日もその未来も変わらない。












「よっ……と」
目一杯背伸びして、リョーマは棚に本を押し込もうとした。
指を使ってなんとかしようと奮闘していたが、後ろから伸びて来た手が本を掴んで所定の位置へと戻す。

「全く、何をやっている」
「部長?」
「届かない場所は脚立を使えと言っただろう。
バランスを崩して倒れたりしたらどうする」
振り返ると、苦笑している手塚と目が合った。
普通ならば思い切り眉を寄せ、「脚立を使え」と命令口調で言うはずだ。

「何を笑ってる」
「別に……」

どうやら手塚は‘恋人’には甘いということを知った。
以前も優しかったけど、両想いになってからはもっと優しい。
あまり態度は変わらないかなと思っていたが、こういうのも悪くないとリョーマは思った。
自分限定だけ甘やかしてくれているということに、くすぐったさと優越感を覚える。

「あー、脚立使おうかなと思ったけど、部長が来てくれるような気がしたから持って来るの止めた」
「……。来なかったらどうするつもりだったんだ」
「でも、現にここに居るでしょ。
そういえば部長って、前から俺の当番の日には必ず顔出していたよね。
あれって偶然だったの?」
問い掛けに、手塚は気まずそうに視線を逸らす。
「偶然、ではない」
「えっ」
「お前に会えると思っていたからな」

素直な言葉を返され、リョーマはどう反応したら良いかわからず固まってしまう。
告白は遅かったくせに、今では妙に恥ずかしいことを堂々と言うものだから、
つい照れてしまう。
計算しての発言ではないから、恐ろしい。
天然には敵わないかも、と心の中で呟く。

「ふーん。じゃあ、今日も俺に会いに来たってわけ?」

周りに生徒がいないから、会話が出来ることに感謝した。
もう一人の当番の委員は例によってカウンターでのんびりと読書に励んでいる。
天気も良いので昼休みにわざわざ図書室に来る生徒はごく僅かだ。
少しだけ声を落として話をする分には、問題無い。

「そうだな。お前がまた無茶をするんじゃないかと心配になって見に来た」
「そんな理由っすか!?」
「いや、本当はただ会いたかっただけだ」

ひそ、と耳元で囁かれ、リョーマは軽く身震いする。
この声、心臓に悪い。
というか、手塚に過剰反応し過ぎる自分が恨めしい。

「部長って……、意外と口上手いよね。
付き合ってから、ううん、その前から驚かされてばっかりなんだけど」
「そうか?そんなこと言われたのは初めてだが……。
言う相手もいなかったしな」
「じゃあ、俺が初めてってこと?」
「そうだな」
手塚はいつもの真面目な顔をして頷く。
「ここまで好きになったのは、お前が初めてだ。
だから包み隠さずに、本音を漏らしてしまうのだろうな」
「だから、こんな真昼間にしゃあしゃあと言うかな……」
「どうした?越前」

両手で顔を覆うリョーマに、手塚は不思議そうな顔をして覗き込んで来る。

両想いになったとはいえ、やっぱりまだ振り回されている感じがして。
悔しいけど、でも幸せでもあって。

こんな気持ちをどう表したら良いのだろう。

「越前?」

背を屈めてこちらの様子を伺う手塚の顔には、必死さが見える。
可愛いなと思うのと同時に、もっと近付きたくなる。

『見てるだけではなく、抱き締めたくもなる』
今なら、手塚に言われたこともわかる気がする。
気持ちだけじゃ足りない。
そんな時は……。






隠していた両手を下げてこちらを見上げるリョーマに、
手塚はごくんと唾を飲み込んだ。
頬を染めて目を潤ませたその姿は今まで見た中で一番可愛く見えて。
抗えない位の力で引き寄せられてしまう。
そっと顔に手を添えて上を向かせると、
リョーマは手塚の目を数秒見詰めた後、両目を閉じた。

お互いに何を望んでいるか、不思議な程伝わっている。

ここがどこなのか、まだお昼休みとか全部忘れてしまう位、
相手のことしか見えてなくて。
そこにあるのは、ただ純粋な好きという気持ちだけ。
恋を知った二人がもっと距離を縮めるのは当然のことで。



本棚の陰に隠れて、
手塚とリョーマは初めてのキスをした。


終わり。


チフネ